129.動き出す気持ち(2)
「部屋の前に立つイーリンに入れてもらったのですが……」
と、フェイロンさんは小声で続けた。
「あいつは、なんであんな格好で……?」
フェイロンさんが指差す方を覗くと、メイユイがビキニ姿で居眠りしていた。
「ほ、ほっといて下さい……」
とだけ応えて、2人でそっと部屋を出た。
扉の前で警備に立ってくれてたイーリンさんに「フェイロンさんが来たことは、メイユイには内緒で」と言うと、あっという顔をした。
あっ、じゃない。
尊敬する上司だから無条件に通したのは分かるけど、女子同士で良くないことですよ。たぶん。
フェイロンさんが護衛も兼ねると言ってくれ、2人で宮城を出て、南側城壁に登った。
離れたところで歩哨に立つ剣士が頭を下げてくれる。
今のジーウォ城内で、城壁の上ほど密談のしやすい場所はない。
ウンランさんの件かなと、身構えていたけど、フェイロンさんが口にしたのは意外な内容だった。
「ヤーモンが兵士団に回っても良いと申し出ております」
「ヤーモンが? ……なんで?」
「フーチャオ殿ですな。住民から募った兵士団を取りまとめてくれておりますが、村長として欠かせぬ人物。もしものことがあれば、城は崩壊しましょう」
確かに、フーチャオさんが毎夜、城壁を駆け回ってくれているのは俺も気になっていた。
「兵士の戦闘参加に最初から関わっていた自分なら、フーチャオ殿の代わりが務まるのではないかと、ヤーモンが申し出てくれました」
「それは、大変ありがたい話だと思いますけど、ヤーモンの立場で大丈夫ですか?」
この王国で剣士が特別な地位にあることは分かる。その立場を捨てるとなると、本人よりも周囲へのハレーションの方が心配だ。
「ふむ。儂もその話は充分にしました。もし仮に王都が無事で、平時に戻れば、剣士のシキタリを破った者として罰せられるかもしれぬが良いか? とまで聞きました。が、ヤーモンの決意は固いようです」
「それは……」
「もちろん、マレビト様の了承が得られるならばの話ですが」
「それって、フェイロンさんも罰せられるかもしれないって話なのでは……?」
と、俺の問いにフェイロンさんは、ふふと笑って城壁の外に視線を落とした。
今日も陽光に照らされた人獣がウロついている。
出来るだけ人獣を城壁に上げない戦術で、戦闘は安定してきたけど、討ち取る数自体は減っていて、城壁間で人獣の滞留が起き密度が上がっている。
「儂のことは良いのです」
と、人獣たちを眺めながらフェイロンさんが言った。
「700人近い剣士を為す術なく失いました。マレビト様の召喚がなければ、残りの300人もいずれは全滅しておったでしょう。儂の首ひとつで済むなら、安いものです」
……この闘いに、いわば途中から参加した俺にとって、700人はどうしても数字になる。
だけど、フェイロンさんにとっては、700人の一人ひとりが、顔の思い浮かぶ部下であり仲間だ。その中にはシュエンのお父さんもいる。
「剣士団の中にも反対される方が多いのでは?」
と、聞いた。フェイロンさんは、少し皮肉な笑みを浮かべて応えた。
「コンイェンが皆を抑えましてな」
コンイェンが?
住民の戦闘参加にも、あれだけ反対してたのに……。