105.幼馴染の未来(1)
ユーフォンさんの引率で、シュエンとユエを先に大浴場に向かわせることにした。
2人の視界から賊の遺体を塞ぐように案内するユーフォンさんが、リーファ姫の寝室を出る直前、クルリと振り向き、悪い笑顔を浮かべた。
「ユエ。あの娘は磨けば光りますよぉ。ふふふふっ」
と、言い残して出て行った。
うん。確かに胸は大きいけど、やぼったい感じがするユエだ。話を聞いた後では、両親から愛情を注がれてない証拠のようにも思えてしまって、苦い気持ちにもなるけど、確かに『磨けば光る』という素質はあるのかもしれない。
ユーフォンさんが浮かべた、悪い笑顔はちょっと気になるけれども。
やがて、衛士のメイユイの声が扉越しに聞こえ、宮城内の探索が完了したことを告げた。
宮城内に賊は残っていない。その報告に、俺はようやく大きく息を吐いた。召喚以来、人獣たちと闘うことだけ考えてきたので、人間から命を狙われるという状況は、精神的にくるものがあった。
どっと疲れが出たように、その場に座り込んでしまった。
それでも、密かに呼び出された剣士長のフェイロンさんが姿を見せる頃には、もう一度、シャキッと立ち上がって迎えた。
シャキッというのは、飽くまでも俺の主観なので、実際にどう見られていたのかは分からない。
賊の遺体を検分したフェイロンさんが、ニヤッと笑って顔を上げた。
「【闇の者】ですかな……?」
「ご想像にお任せいたします」
と、シアユンさんは、いつもの氷の微笑で応える。ツイファさんも澄まし顔のまま動かない。
その言葉を口にしたフェイロンさんにも『誰が【闇の者】なのか』は分からない様子だった。
「承知しました。剣士団で、密かに葬りましょう」
と言った、フェイロンさんを俺が止めた。
「その前に、フーチャオさんにも見てもらいましょう」
「と、仰いますと?」
「まだ、仲間が紛れているかもしれません」
このジーウォ城は流れ者が多く、人の出入りが多いという。
剣士府で俺が演説したとき、オレンジ髪の剣士コンイェンは、俺のことを「この城は人の出入りが多い。誰も知らないヤツを、適当にマレビト様って祭り上げただけじゃねぇのか?」と疑った。
賊の仲間が紛れ込んでいてもおかしくないし、フーチャオさん以外の人では、見分けがつかないだろう。
深く頷いたフェイロンさんが出した使いに呼ばれたフーチャオさんが、すぐに姿を見せた。
「見覚えがありますな」
と、賊の遺体を一瞥したフーチャオさんが言った。
「あと2人ほど、ツルんでいた奴がいたはずだ」
「分かった。剣士団で拘束し、衛士に引き渡そう。宮城の地下牢に入れておくだけなら、今の衛士団でも対応できよう」
というフェイロンさんに、シアユンさんが口を開いた。
「剣士長様。不躾ながらお願いがございます」
「なんですかな?」
「マレビト様の護衛が衛士1人だけでは、少し心許なく存じます」
「ふむ」
「事態が完全に収まるまで、しばらくの間で結構ですので、剣士をお一人、護衛に回していただけませんでしょうか?」