14 グラーニャ姫の処遇
「黒羽ちゃん。今回こっきりですよ? 私たちのこと、他の人に話すのは」
『……ごめんなさい』
巨大な翼以外はちっさい女神が、机の向こうのおじさん騎士に叱られている、珍しい構図である。他に見える人がいなくて良かった、権威大失墜である。
「んー……しかしですね。それを知って以降、オーリフが何かこう、びしっと吹っ切れた感じになったのも確かだから、まぁ良しとしますか」
ディアドレイとオーリフが近々結婚すると知らされたグラーニャは、昼の正餐の場で倒れて気を失ったという。その後ずうっと自室に閉じ込められて、泣いてばかりいるのを女神は知っている。時々行って、髪をなでてあげるのだけど、自分がもらい泣きして手巾をびしょびしょにしてしまう。
『……グラーニャ、どうなるのかしら。まだあんなに小さいのに、ほんとにどこかへお嫁にやってしまうの?』
「ええ、そこの所はもう決定です。……黒羽ちゃん、小さいって言うのは背丈でしょ。彼女ももう女性なのだから、子ども扱いしちゃいけません」
『……』
「ただね、送り先がほんっと難しい。王も王妃も頭痛がんがんです。オーラン公の若さまのところへ行ければ一番良かったんですけど、あすこのうちは去年結婚しちゃったし。ファダンとガーティンローの王子様たちはちょっと若すぎてまだ子どもだから、その辺の騎士団長格の貴族へ降嫁させるのが、まあ無難な道です」
グラーニャはあくまで、テルポシエの外に出されるらしい。
「あと。ほんとの本当に手詰まりになったら、切り札マグ・イーレを使うしかありません」
『それは……。本当に、やめて欲しいの』
「ええ、最終手段ですよ。あの貧乏国にテルポシエが貸し付けてる借款の減額をちらつかせ、それと引き換えに押しつけるんです」
『あそこの若い王様だって、奥さんもういるんじゃないの』
「子どもが生まれていないなら、重妃制度適用で滑り込ませます。……力技ですけどね」
『……かわいそうな、グラーニャ』
「厄介払いというならさらに非道に、賊の首領にやっちまう、と言う手もあるんですよ?」
『ミルドレっ』
「そうすることで、彼らを正規の傭兵として迎え入れる。教化し吸収すれば、ものすごく有益です」
『何それ、何それ! そんなの、わたし聞いてないッ』
「ええ、初めて言いましたから。私の好きにしていいなら、むしろそうします。……まあ言い出しませんけど、ね」
机の上にのせた両手こぶしを、女神はぎゅうっと握りしめた。やさしいミルドレが、そんな怖いことを頭の中に思い描いていたなんて、……!
『ミルドレ、どうしてそこまで冷たいの。グラーニャに』
「……。どうしてなのかなあ」
ディアドレイを推すばっかりに、本当の王の娘が憎いということなのだろうか?
たしかにグラーニャは明るくって利発な子だ。けれどミルドレは意識的に、失恋したばかりの幼い姫を遠ざけようとしている。
「……ディアドレイにもテルポシエにも、あのお姫様は将来の脅威になるような気がしてならないんです。そういうのを小さな種のうちにつぶしておきたい、となぜか思っちゃうのですよ」