12 イリー暦164年 巡行の夜
「うん、なかなかよろしい展開です。これで次世代あたりには、見て聞ける子が出現するかもしれない。オーリフとディアドレイには、ちゃっちゃと結婚して子どもをつくってもらいましょう。丁度いいあんばいに王もお疲れだし、そろそろ執政官の皆に手を回して、女王即位をすすめさせようかな……。同時にオーリフを“傍らの騎士”に立候補させて、と」
北方へ繋がる街道沿いの大きな村。防衛要所を定期巡行の復路、騎士団一部と宿泊中のミルドレである。
宿屋の屋上から眺める夏の星空は、まばゆいくらいに明るかった。
『ディアドレイは、ほんとに恋しちゃったのね』
「オーリフもね。あんなに背筋を伸ばしてしゃっきりしたディアドレイなんだから、自然っちゃ自然です」
『むちゃくちゃきれいになったわ、あの子』
「いつもはあんまり、変わらないけど。槍稽古の恰好すると本当に見違えますね、しかも実力がついてきているし。こればかりは、短槍のグラーニャ様もかないません」
女神は、すぐ横に座る騎士を見上げる。
『オーリフに、言わないのよね? わたし達のこと』
「彼だけでなく、誰にも言いません。でもオーリフには黒羽の女神の守護がついていること、そういう彼を私が全力で推すとは言いました。聞いてたでしょう?」
『……オーリフとディアドレイは、きょうだいなのよ。何かの拍子にどちらかがそのこと、知ってしまったら』
「そういう拍子は起こりません」
ふふふ、とミルドレが暗い中で笑う。
「あなたか私が言わなければ、他の誰にもわからないことでしょう?」
『まあ、そうなんだけど……』
「それにね、血の濃いどうしの方が、次世代の子に期待できるかもって思っちゃうんですよね」
『うーむ』
「ほんと、楽しみですよ。あなたが若い男の子と女の子に囲まれて、面白そうにおしゃべりしながら、お供えものを一緒にたべてる光景……。想像するとうれしくなる。何が何でも実現させたいもんです」
――でもそこにあなたがいないのなら、わたしはしあわせではないわ。
「……行きませんか。黒羽ちゃん」
『そうね、疲れたのねミルドレ。もう寝よっか』
「じゃなくて、夕食お世話になったところの農家さん。新婚夫婦がいたから、たまご置かせてもらいましょう」
『ほがぁぁっ、何言ってんのミルドレ!? 貴族に絞るって……』
「ちょっとは例外あった方がいいかも、って。なかなかお金持ちの家だったし、すごく丈夫そうなお嫁さんだったから大丈夫ですよ!」
『……』
「さすがにミルドレもね、ちょこっと衰えてきました。リルハさんはかわいそうに、更年期で苦しんでいるし……。この辺で最後の悪あがきです」
『ううううっ、リルハ……』
毎日毎日、かの女が一生懸命与えている祝福も、恐るべきほてりと冷え性とむくみと眩暈を和らげるくらいしか効果がなかった。
神なのに、どうしてこの辺自分は無力なのだろう、と黒羽の女神はいつも思う。