連想
今でも、とても信じられない話なのです。
どうか、私が荒唐無稽な法螺話を言っていると思わないでください。
今ではもう無くなりましたが、私たちの時代には卒業アルバムにすべての生徒の住所と、連絡先の電話番号が書かれていました。個人情報という考え方が希薄だったのですね。そんな時代の話です。
小学校の同窓会……私は何年かに一度出ていたのですが、その年はある企画が行われました。
会場の壁に小学校があった街の地図を貼り出し、そこにみんなの通学路を描こう、というものです。
皆は太いマジックを持って、会場の地図に自分の家までのルートを描いていきます。
そこで何人かが言いました、これは行きか、帰りかと。
どちらでも同じではないか、と私は言いました。しかし会場の何人かは、行きと帰りで道順が違っていたそうです。
それなら、学校から巣立っていくという意味を込めて帰り道にしようか、と誰かが提案します。
皆が線を引きます。学校から線を伸ばして、大通りから道を分かれて、なんだか樹形図のようで、なかなかに面白い企画だと思いました。
そして何人かが、はたと手を止めます。それは先ほど、行きなのか帰りなのかと聞いていたグループでした。
見れば、町の片隅、住宅街の中にぽつんとある公園、その周辺にはマジックの線がありません。
皆、この公園だけは避けて通っていたと言うのです。
いったいこの公園に何があったんですか、と誰かが聞くと。線を避けていた十人ほどが、順番に話しだしました。
――あの公園には大きな木があったが、何度も首を吊る人間が出たので、行政が木を切ってしまった。
――あの公園には近づかないようにと言われていた。
――私も首つりを見た、カラスが集まっていてひどい匂いだった。
そんな話が語られます。ただ、私はそんな話を聞いたことがありませんでした。
私の通学路とは反対側ですし、首吊りの話など小学生に聞かせることもないでしょう、だから知らなかっただけだと、そう考えました。
話は続いています。
――私も、黒い袋のようなものがぶら下がっているのを見た。首吊りは排泄物を垂れ流してしまうらしいから、大きなナイロンの袋で首から下を包んでいたらしい。
――私も聞いた。でもなぜか、どの首吊りにも台座のようなものが見当たらなかったらしい。
妙に具体性のある話、どこか怪談めいた話。首吊りついての話だというのに、全員の目が語り手に集まっています。
順番を守るように、語り手は右隣へと移っていきます。
――ある時は、一度にたくさんの人が首を吊った。誰もが黒い服を着ていた。
――その光景があまりに異様で恐ろしかったので、最初にそれを見つけた人も、衝動的に首を吊ってしまったらしい。
なぜそんな話が飛び出すのか分かりませんでした。あまりにも常軌を逸していて、現実のこととも思えない。でも妙に真に迫っているように思えます。
同窓会の席だと言うのに、話すのを止められないかのようでした。
そして、公園を避ける線を描いた最後の一人が。
――私も、あの木で首を吊った。
そう言った瞬間、その人物の首が伸びるように見えました。
だらりと体中から力が抜けて、その場に倒れたのです。一瞬遅れて、頭がどんと床に落ちました。
その人物は首の骨が折れていました。
首にはくっきりと、ロープの跡が残っていたのです……。