アカナさん
ある中学校には奇妙な噂がありました。
夕方、空が燃えるように真っ赤になると、「アカナさん」という人物が帰り道に現れるというのです。
アカナさんは全身が血のように赤い人物だといいます。ですが、そのことを奇妙だとか、恐ろしいとは思えないそうなのです。
アカナさんはこう言います。
私の家はとても遠く、何年歩いても帰りつけない。だから帰り道を少しもらってくれたなら、あなたのお願いを叶えてあげましょう、と。
これを聞いた子が願い事を言うと、その願いは叶えられ、家までの帰り道が少し遠くなるそうです。
この噂を聞いて、どうしてもアカナさんに会いたいと思った女の子がいました。名前を仮にSさんとします。
血のように赤い夕焼けが降りる日、Sさんは急いで中学校を出ました。
そして、その日を境にSさんは学校に来なくなりました。
噂では、Sさんはあまりにも大きなお願いをしたので、とても帰れないほど家が遠くなってしまったのだ、と囁かれました。
Sさんが何をお願いしたのか、それは分かりません。
……ですが、この話は続きがあるのです。
日本のとある場所。
真っ赤なペンで書かれた手紙が、家のポストに投げ込まれていた、というのです。
『私は――県――郡――中学校二年四組のSです。
私は騙されました。アカナさんはとても悪い、神様じゃない。私は二度と家に帰れない。
どうかヤナガの家にこの手紙を届けてください。
アカナさんが私を探しに来ても見なかったと言ってください。
アカナさんは赤いものが見えません。アカナさんは赤い。アカナさんは赤だけ。アカナさんに血のことを』
ここまでで手紙は終わっていました。とても急いで書いたような、乱れた字だったそうです。
Sさんはどこに行ってしまったのか、手紙で、何か大事なことを伝えたかったのか。
それが何なのかは、もはや誰にも分からないのです……。