喜劇の救世主
人に食べられるために産まれ、育てられ、最期には殺される経済動物たちを救うため、人工肉を発明した。
人工肉は豚、鳥、牛あらゆる生物の肉の味を忠実に再現。それでいて低コストで大量生産できる、理想的な食糧。
これで食われるためだけに産まれ、殺される動物たちをこの世から無くせる。そう私は確信した。
現実は違った。
コストをかけずに大量生産できる人工肉は想像以上に普及、既存の動物肉をあっという間に駆逐。ただコストがかかるだけの経済動物たちの居場所はなくなり、まだ精肉に満たない子供だろうと屠殺場に送られ、世界から姿を消した。わずかに残った動物たちは富裕層向けの天然肉として今まで通りの扱いを受けている。
すべてが終わった後から思えば、こうなることは読めていたことなのに、なぜ考えに至らなかったのか。
ただただ自分の描く理想しか見えていなかった、ある意味幸せだった頃の自分に今の現状を見せてやりたい。
わたしがこんな状況でも笑っているのは、人工肉の普及で人類の食糧問題をいくらかが解決してしまったからだ。
救いたいと願っていた経済動物たちは死に絶えさせたわたしが人類の救世主になったのは本当に笑える。
喜劇としか言いようがない。