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第四十二話 断罪再び

「皆の者! 今日は愚かなる罪人を裁くため、ここへ集まってもらった。大罪人、グレース。前へ出よ」


 国王の声が広間に響き渡る。

 それと同時に、手足を縛られたグレースが王国兵たちによって前へ押し出された。あまりにも乱雑な扱いに文句を言いたくなったが、まあ今は堪えるとしよう。


 王の言葉は続く。


「この者は罪深くも我が弟を誘拐し、その上殺害した容疑にかけられている。これから、その罪を王の名において裁く!」


 さすがは国王だけあって、王太子の断罪劇とは一味違う。

 少しくらいは付き合ってあげましょう、そう思い、グレースは黙って聞いていた。


 集まっているのは国王の他に、王妃や王太子、他の王族や上位貴族。

 どうやらハーピー公爵の姿はないようだ。南方までに知らせを届ける時間がなかったのか、意図的に知らせなかったのか。


 グレースが囚われてからまだたったの半日しか経っていない。それで早速断罪するなどとは少し気が早すぎる気がした。


「グレース、まさかお前が伯父上を殺すなどとは……! あの時地下牢にぶっ込んでおけば良かったものを!」


 ハドムンが吠えている。

 そもそもあの王太子の断罪劇が間違いであると叫びたかったが、そんなことをすれば首が断たれてしまうだろう。無駄に命を散らしたいわけではないので口を開くことはなかった。


 王太子に続き、他の者たちがどよめく。


「やはりか」

「この娘が」

「早く処刑を」

「王弟殿下を」


 愚かな奴らだ、とグレースは内心で呟く。

 ジェイミーという元々は平民であり特別な才もない少女にすら騙せてしまうような人間が、国の頂点に立っていいのだろうか。それとも皆が皆これが茶番であるとわかっていて、それでもグレースを断罪したいのかも知れない。


 王が言った。「グレース、王弟を誘拐し殺害した罪、認めるか」


「恐れながら国王陛下、ワタクシは決してそのようなことをいたした覚えはございません。侯爵家からの追放処分を受けてからというもの、遥か南方のオーネッタ男爵領に身を寄せておりました。ですから王弟殿下のいらっしゃった離宮に足を踏み入れる勇気などございませんでした」


「嘘よ! この女は簡単に嘘を吐くのですわ。お義姉様が王弟殿下を殺した証拠は山ほどありますのよ!」


 普段通りの口調に戻っているジェイミーがそう言って、紙束を広間の大テーブルに叩きつけた。

 それはおそらく彼女が捏造した証拠の数々なのだろう。よくもまあそんなことができたものだと感心する他ない。


「グレース、お前は魔女だ。早く死んでしまえ」


「ハドムン殿下。まだワタクシが犯人と決まったわけではございませんでしょう? それに、証拠が捏造である可能性もあります。ワタクシを目の敵にし、あることないこと確かめずにワタクシを罪人にしたがるのはどうかと思いますよ?」


「なっ」


 黒い瞳でこちらを睨んで来るハドムンに言い返せば、彼はわかりやすく激昂した。

 王太子ともあろう者が気が小さすぎる。ますますこの国の将来が不安になった。


「ワタクシが王弟殿下を殺害したとして、その動機は一体何でしょう。パーティーなどで数度お会いしたことはあったような気がいたしますが、ワタクシはそれ以上のお付き合いはありませんでしたが」


「そなたが王弟に援助を求め、それを断られたがために殺害したと、手紙に記されている。これはそなたの直筆であろう?」


 手紙がグレースの目の前に差し出された。

 なるほど、王弟とグレースが内密に手紙を交わしたという話になっているらしい。片方はグレースの筆跡ととてもよく似ていた。


「ワタクシにこのような手紙を書いた覚えはございません。筆跡など、技術者を雇えば偽造は容易い。これが確実に偽造されていないと証明する証拠はございますか」


 ジェイミーをチラリと見てみれば唇を噛み締めている。図星のようだ。


「そ、それが王弟殿下のお住まいから侯爵邸に送り付けられて来たのですから、出どころは明らかですわ。お義姉様、言い訳は見苦しいですわよ」


「あらあら。強がってしまって可愛い子。まあいいでしょう。仮にワタクシがそのような手紙のやり取りを行ったといたしましょう。そうすれば誘拐の経路は? どこで殺害をしたというのです?」


 誘拐の証拠も殺害の証拠も、きっちり偽造されていた。

 よほど力を入れたのだろう。ハドムン王太子との婚約破棄&断罪の時とはあまりに違いすぎる出来具合だった。さすがに王弟が殺されたという大事だからそれくらいは必要なのだろうが。

 それにしても、王弟が誘拐されたのは本当らしい。では一体今どこにいるのだろうかと少し気になった。

 ともかく、


「判決を言い渡す。グレース、そなたは王弟を殺した罪、及び王太子への不敬罪、侯爵令嬢への不敬罪等により斬首刑に処す。異論はないな?」


「ハドムン殿下に唾をかけたのは本当です。しかしそれ以外は否認いたします」


 王は唸った。しかしグレースの言い分はどうやら聞いてくれないようだ。あんなにも国のために尽くして来たというのに少しも信頼はないのですねと思わず笑ってしまう。

 そうして哀れな少女は、冤罪により殺され、稀代の悪女として王国史に語り継がれることになるはずだった。

 しかし――。


「失礼する。……僕のグレーに触るな、愚図ども」


 ああ、やっと来てくれた。

 グレースは安堵に頬を緩ませる。そしてそちらを見た。


「心よりお待ちしておりました、セイド様」


 広間に駆け込んで来た白髪の戦士の姿。

 そして直後、彼が手にする剣から輝きが迸り、王国兵たちを吹き飛ばしていた。

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