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第三十話 なんとしても守り抜く決意

 グレースは復讐を捨てた。

 代わりに自由で幸せな人生を生きたいと、今はそう願っている。ただそれだけだ。


 しかし世界というものは、一人の少女の平穏すら許してはくれない。

 これから、彼女の命を奪うために立ち塞がる者が次々と現れるだろう。それはもしかするとグレース自身だけではなく、彼女の想い人にすら危害を加える危険性がある。


 そこまでを考え、彼女は決心を固める。

 絶対に自分の自由を諦めない。だから――。


「なんとしてもワタクシがこの手で、全てを守り切ってみせます」


 女魔道士グレーの名で手に入れたこの地位を、穏やかな日々を、かつての『グレース・アグリシエ』に執着するあんな奴らに奪われてたまるか。

 セイドには頼れない。彼にはこの面倒ごとに巻き込まれてほしくはないからだ。だから彼のためにも、彼女は自分にできるだけの力で邪魔者と抗おうと決めた。


 それがどんなに困難な道であろうとも構わなかった。

 グレースは幸せになりたい。今までの人生、虐げられてばかりだった。少しは幸せを味わってもいいではないか。

 自分のしたいことをして、好きな人と喋って、共にいられる幸せ。それを禁じられる権利など、この世界の誰にだってないはずなのだ。


 義妹のジェイミーは王太子ハドムンと仲良しこよしやれているはずである。もしも関係が悪化していたとして、それは彼女自身が望んだこと。

 ではグレースも彼女を見習い、自分の意思のままにあろう。ただし、正しい方法で。


「ハーピー公爵家に事情を話し、護衛をつけていただくのも一つの手ではあるかも知れません。しかし公爵家が謀反を起こすであろうことを考えれば、あまり深い関係を疑われればもしも謀反に失敗した時、ワタクシの幸せが危うくなりますね。……ああ、そうでした。その場合は他国へ逃れましょう。それから……」


 頭の中で計画を組み立てていく。

 それと同時に、自分の体力向上及び魔法の鍛錬が必要だろうなどと考えていた。今まではぬるま湯に浸かっていたが、これからはどうもそうはいかないらしい。

 Aランクにいち早く昇格するためにも、魔道士として強くなるのは大切なことだった。


 そうと決まれば早速行動だ。

 次の暗殺者がいつ送り込まれるかはわかったものではない。できることなら明日からでも始めよう――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ハーピー公爵領に巨大洞窟が……?」


「そうです。こちらの依頼を見てください」


 Bランクの掲示板に貼られていたのは、公爵領北側の山に新たな洞窟が見つかったとの話だった。

 これ以上ない好都合な話に、グレースは一も二もなく飛びつく。「危険じゃないかい?」と不安げなセイドを押し切って、洞窟探検に出発することにした。


 まだ開拓のされていない洞窟は魔物だらけであり、魔法の練習場にはもってこいだ。

 実際、十歩歩くごとに魔物が出没する状況は少し面白いくらいだった。全部で一万匹近くは倒したのではないかと思える頃、ようやく最深部に眠っていた金銀財宝を手にすることができた。道中、他の冒険者たちとも鉢合わせしたが、どうやら一番乗りらしい。


「うっかり横取りされないように警戒しておいてください。魔物はワタクシがやります」


「ああ、助かるよ」


 後は魔物を跳ね除けながら洞窟の外を目指すだけ。

 そして案の定ワタクシたちを狙って来たAランク冒険者がいたが、そいつらもお掃除しておいた。まだ柄の悪い奴らがいたのかと驚きつつ、そこにもまた力を入れなければと考える。


 結局傷一つ負わず洞窟を脱出することができたのであった。


「じゃあ、ギルドへ帰ろう」


「そうでした。戻る前に一つ用事があるのを忘れていました。ワタクシ、ハーピー公爵と話したいことがございまして」


 そもそも公爵領を仕事場に選んだのは公爵との話し合いがあるからだ。

 セイドはすぐに頷くと、公爵邸へ向かってくれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ということですので、王家の動きに警戒を」


「それをなぜ私に?」


「当然のことです。ハーピー公爵様は王家へ謀反を起こすおつもりでしょう?」


 ハーピー公爵は「ふっ」と笑った。どうやらやはりやる気らしい。


「グレース嬢にはお見通しのようだな」


「いいえハーピー公爵様、ワタクシはグレースなどではございません。ワタクシの名はグレー、女魔道士として働く一端のしがない冒険者でございますよ?」


「そうだったな、ははは。……ともかくきちんとオーネッタ男爵にもこのことを伝えよう。それと男爵領の警備を厳重にする。後は暗殺者の身元の捜査だな」


「ええ、よろしくお願いいたします。何かわかったことがあれば、ぜひ我が家までお知らせ願いたく」


「わかっている」


 グレースはワンピースの裾を摘んでお辞儀をした。ちなみに今日は冒険者スタイルでありドレスは着ていない。

 「では、失礼いたします」と言って、彼女は応接間を立ち去ったのだった。



「セイド様、お待たせして申し訳ございません」


「いや。全然早かったよ。それで話って何だったんだい」


「ワタクシたちの冒険者活動が快適になるよう、手配していただいたまでです」


 これは一応嘘ではない。王家の暗殺者がこのあたりを常に見張っているような事態になれば、グレースたちにとっては心休まる時間がないからだ。

 セイドはその説明で納得してくれたらしく、追求はしてこなかった。


 冒険者活動と、魔法の鍛錬と。

 打てるだけの手は打つ。後は相手の出方を見守るのが一番だろう。


「そして全てが無事に片付いたら――今度こそセイド様に告白して差し上げましょう」


 思わず顔を真っ赤にしながら、グレースはそんなことを固く誓っていた。

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