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第十八話 冒険者改革

 Cランクへの昇格により、ある程度活動内容が増えていく。


 少し遠くまで足を伸ばし、海辺の魔物を退治したり。

 あの赤い草よりさらに貴重な薬草の採取であったり。


 しかしそんな日々がしばらく続き……グレースは思った。

 セイドは色々と頼りになり、一緒にいると楽しい。ハドムン王太子よりしょっちゅう喋りかけてくれる。これが友人というものなのだろうかなどと思い始めていた。

 しかし、だ。


 これはグレースの目指していたものとは少し違うのではないか、と気づいてしまったのだ。

 本当ならここの町の人々を味方につけ、さらにそれを広げていき王国の南部を支配、その上で事実上の領主になるという算段だった。

 そのためにはまず領民の交流が大切だ。そのための冒険者業のはずだったのに……。


「領民と少しも交わる機会がないですね」


 そうなのだ。

 ギルドにある仕事は魔物退治ばかりで、直接的に民と関わり信頼を得るなんていうことはできていなかった。

 しかも、あちらこちらでは素行の悪い冒険者が人々を困らせており、冒険者は毛嫌いされている。まずはこの仕組みをどうにかしなければ、たとえSランクに上がれたとして、国を牛耳るようなことはできないだろう。


 グレースは頭を悩ませた。唯一のパーティーメンバーであるセイドに相談できないのが痛手だが、もちろんバラすわけには行かないのだ。だから、彼女一人で何かを思いつくしかない。


 とりあえず、ただただ昇格を目指すだけではダメだ。

 もっと民と仲良くなり、信頼を勝ち取る必要がある。そのためには、我が物顔でのさばる愚民どもを排除すべきだっろう。


 彼女は早速行動を開始した。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そこのあなた。何をしていらっしゃるのですか?」


 平民の女に詰め寄っていた人物へにっこり笑いかけ、グレースは小首を傾げて見せる。

 精一杯に淑女の微笑みを浮かべて、しかし目だけは敵意を込めて。


「だ、誰だお前は」


「ワタクシですか? ワタクシはCランクの冒険者、女魔道士グレーと申します。以後、お見知り置きを」


 ワンピースの裾をつまみお辞儀。

 あまりにも丁寧な仕草にひとまず男――Aランクでありながら悪評高い冒険者は驚きを見せた。

 しかしすぐに立ち直ると、


「オレは今この女とお話ししてるんだ。娘っ子はどっかに行きな」


 この女と言って差す女性には、おそらくこれから暴行をするつもりに違いない。

 グレースはこういった愚かで醜い男が一番嫌いだった。だから、手加減などするつもりもない。


「『蒼炎よ、この者の魂までも消し炭にせよ』」


 静かに呪文を唱えた瞬間、青い炎が視界を埋め尽くす。

 これがグレースの魔法の一つである。火力は最大、身も心も魂も焼き尽くす恐ろしい魔法。


 よくよく考えてみればハドムン王太子は幸運な方だ。もしもグレースの情がほんの少しでも残っていなければ、この男のようになっていただろうから。

 悪質冒険者の男は絶叫し、その場に崩れ落ちる。炎が轟々と燃え男の身体中に広がり、彼に拘束されていた女も悲鳴を上げた。


 しかし彼女を救い出す手が差し伸べられる。それはこの作業に協力してくれたセイドだった。


「レディー、僕と安全な場所へ。グレーはその男を頼むよ」


「もちろんです。もはや起き上がる可能性すらありません」


 この時すでに男は、魂ごと消えてしまっていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 自分が魔獣退治をしてやるのだからと平民たちを脅し、好き放題にやっていた冒険者たちはあらかた片付けた。

 あの男のように焼いてしまうことはあったが、大抵は力を見せつけて怯ませ、「今度やったら容赦しない」と言っておく。

 冒険者の意識改革にも取り組み、彼らが町の人々と親しくするように仕向け、成功させた。


 そうするとこのオーネッタ男爵領の治安が目に見えて良くなり、男爵から褒美をもらってしまうことになる。

 そして町の人々からもたいへん感謝され、女魔道士グレーの名が知れ渡ったのだった。


「これで満足かい」


「はい、とても。他の真っ当な冒険者の方々も助かったと言ってくださいましたし、味方をたくさん作れたので良いことばかりです」


「出会った当初、君はただの女の子かと思ってたけど意外に強いんだな」


「これでもワタクシ、元侯……いいえ、女魔道士ですので」


 血統のおかげで魔力値は高いし、使える魔法も多いが。

 自慢げに微笑むグレースはこの先のことに思いを馳せる。このまま徐々に信頼を厚くし、そして広範囲に広げていく必要があるだろうか。


 ギルドでは想像以上に評判が良くなって、その分妬まれることも増えたが、そんなことはどうでもいい。

 とにかく次の昇格と人気集めに奮闘しなければならないのだから。


「ハドムン殿下。あなたの知らない場所で、あなたに牙を剥く用意はすでに整ってきつつあります。お覚悟はできているでしょうか」


 かつての婚約者を思い浮かべ、その残像にそっと語りかける。

 哀れな王子はきっとまだ何も気づいてはいないだろう。気づいた時にはもう手遅れなのだ。


 グレースの計画は着々と進んでいた。

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