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第十話 ギルド

 王都からどのくらいの距離を歩いたか、もうわからない。

 そこは南方の海辺の町。規模は小さく、海の見える道に住宅街が並んでいる。


 子供たちのはしゃぐような声に混じり夫人たちの会話などが聞こえてきて、静かで賑わいのある町という感じだった。


「平民はいいですね。あのように気軽な交流をして。……そうでした、ワタクシも今は平民なのですね」


 なら、いつかああやって無駄話をしたりもできるかも知れない。

 グレースは未来の王太子妃として社交でも喋れる人数が制限されていた。だから今の方がきっとずっと身軽なのだろうなどと考える。

 ともあれ、婚約破棄されて良かったのだろう。


 そして彼女は立ち話をしていた夫人たちに話しかけた。「あの」


「見かけない顔だねぇ。旅人かい?」


「その通りです。ワタクシ、とある場所を探しているのですが」


 グレースは彼女らに、ギルドの場所を訊いた。

 すると彼女らは眉を顰め、首を横に振る。


「あんなとこ行かない方がいいよ。依頼料は高いし冒険者の柄は悪いし……」

「そうさ。魔物退治ができるっていうからみんな許してやってるけど、あいつらと言ったら酷いんだから。ねぇ?」


 やはり冒険者は不人気どころか嫌われているようだ。

 まさか自分も冒険者になるつもりだとは言えず、グレースは「了解しました」と言ってその場を辞す。とりあえず、自力で探してみよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 町を巡ったが、なかなかそれらしき場所は見つからない。

 一体どこにあるのだろうと彷徨い歩いていたところ、声をかけられた。


「嬢ちゃん、何かお探しかね?」


 一瞬、また柄の悪い男たちかと思ったが、しかし今度は違ったようだ。

 それは老人だった。見るからによぼよぼだ。

 グレースは一瞬どうするか悩み、その末に尋ねることにした。


「あの。この辺りにあると噂の冒険者ギルドというところへ行きたいのですが、どこなのか皆目見当がつかず。他の方々に尋ねても行かない方がいい、と言われるのですけれども、どうしても行かねばならない事情がありまして」


 老人は「うーん」と唸った。

 またダメか。半ば諦め、立ち去ろうかどうかと思っていたその時だった。


「儂も実は昔そこに登録をしておってな。今は辞したが、昔はバリバリ働いておった。儂が嬢ちゃんを連れて行ってやろう」


 意外な言葉に、グレースは目を見開いた。「本当ですか? であれば、お願いいたします」


 老人は連れて行ってくれる最中、色々と話してくれた。

 例えば、冒険者の職種についてだとか。魔物と戦う時の心得だとか。いまいち聞いてもよくわからないことが多かったが、それでも心に留めておくことにする。


「あなたはいい人なのですね。聞く限り、冒険者とやらは力はあるもののあまり好かれていないそうですが」


「うん。まあ、そうさな。悪行を働く奴も多少……いや、かなりおるじゃろうよ」


「ワタクシ、あなたのような素敵な冒険者になろうと思います。いいお話を聞かせてくださりありがとうございました」


 少なくとも王妃教育の中では聞かなかった、とても新鮮で面白い話ばかりだった。

 グレースはもっと早くに婚約破棄されていれば良かった、なんて思う自分に苦笑する。


 もう少し冒険者というイメージを改革していく必要がある。

 そしてそのうちは富豪たちや有力者を巻き込んでの大きな計画にしていく予定だ。いつか、この国を没落させるのだから。


 まさか目の前の老人は、グレースがこんな考えのために冒険者になろうと思っているとは考えてもいないだろうが。


 ……さて。

 そうこう言っているうちに、とある酒場へ着いた。


 町の酒場というのは初めて見る。

 旅の中でそういう店があるのは知ったが、実際に目にしたことはなかったのだ。貴族社会では当然のことながら従者が用意するのが当たり前。自分でわざわざ酒場などに足を運ぶはずもない。

 もっとも、グレースはどちらにせよまだ呑めない年齢なのだが。


「この中に、例のところがあるのですか?」


「そうじゃ。ささ、行っておいで」


「わかりました。感謝いたします」


 グレースは手を振って、老人と別れる。

 そしていかにもけばけばしい外装のその酒場へと足を踏み入れたのだった。


 ここがギルドと呼ばれる場所。

 今ここからグレースの復讐劇が幕を開けるのだ。それが一体どんな風なものになるかはまだ予想がつかないが、きっと楽しいものになるに違いないという予感がしていた。


「ハドムン王太子殿下はワタクシがこんなことをしているだなんて思わないでしょうね……。後で絶対に泣かせてやりますから」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――しかしこの時の彼女はまだ知らない。

 これが裏切り者たちへの復讐劇の始まりではなく、全く別の新たなる人生の幕開けになるのだということを。

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