お姉たまの気持ち
口籠る腐れビッチですの。
「何が分かったのです?」
「言いたくないんだけどね」
「教える気は無いと」
「だって、負けたって思っちゃうし」
腐れであっても、お姉たまに対する気持ちは、ものすごく強いのだとか言ってます。変態では無いですか。私を変態呼ばわりしておいて。
と言うことは、話の流れ的には。
「私に」
「どうかなあ」
勿体付けてますの。
「あ、次、あたし出番だから」
そう言って離れる腐れです。
「ねえ、なに話してたの?」
クラスの女子です。気になったのでしょうか。大したことは話してないのですが。
「お姉たまへの愛情の深さですの」
「相変わらずだね」
「じゃあ、あの子も先輩を好きなんだ」
「みたいですの」
ひとつ、私にも気付けたことが。
お姉たまは腐れビッチを好きではないと。私を好きなのか、と言えば、よく分かりません。ですが、腐れに対しても気持ちは無いと分かります。だから、見てて分かったことが、などと言い出したのでしょう。
お姉たまはノーマルを自認してますし。いずれは靡かせたいのですが、難易度は高いのでしょう。
腐れが走ってますの。
それ程足は速くは無いのですね。私はダンス部で鍛えていますから、もう少し体も軽快に動くのです。お姉たまに鍛えられていますから。
勉学の方はどうだか知りませんが。
体育祭が終わり、汗と土埃塗れになっているのです。このまま電車に乗りたくありません。
そこで、お姉たまをお誘いして、シャワーをなどと考えたのですが。
「帰るよ」
「お姉たま。すっきりさっぱり」
「あんたがすっきりするだけでしょ」
「いえいえ。お姉たまもです」
違う意味ですっきりしたいだけでしょ、ではありませんの。確かにそうなのですが。
「汗と土埃を落とした方が」
「ひとりなら」
「お姉たま。そこまで警戒しなくても」
「でもさあ」
と言いながら私を見るお姉たま。明らかに怪しんでおりますの。見透かされてるとも言えそうです。ですがこれで引き下がっては、お姉たまへの愛を貫徹など不可能。
さらにここは強く押しまくるのです。
「如何わしいことはしませんの」
「如何わしいって?」
「それは、お姉たまの体を隅々まで堪能」
「無いからね。それが目的みたいだし」
違うのです。いえ、違わないのですが。
「お姉たま」
腕を掴みシャワー室へと連れ込もうとしますが、そこは抵抗するお姉たまが居て。
ですが次の瞬間、深いため息と同時に、一緒に歩き出しました。
お姉たま? どうしたのでしょう。さっきまでの抵抗が嘘のようです。
「あの」
「言い出したら聞かないんだもん」
そしてシャワールームへ直行ですの。他の生徒もまだ居て少々混雑してますの。
「混んでる」
「そうですの」
「やっぱ帰った方がいいんじゃ?」
「いえ、少し待てば」
脱衣室前で少し待つことに。
ベンチがあるので並んで腰掛けます。
待っていると、まさかの腐れビッチも来てしまいました。
「シャワー待ち?」
「そうですの」
「使うの?」
「はい。そのつもりだったんですけど」
腐れがお姉たまを見てます。じっと見てると思ったら。
「あの、円華先輩。待ってる間、少しいいですか?」
「なに?」
「ここだと話し辛いので」
そう言って連れ出そうとしてますね。
「何をしようとしてますの?」
「すぐ済むから。別に奪うわけじゃないし」
お姉たまと目が合うと「少し待ってて」と言って、腐れと一緒にどこかに行ってしまいました。
もしかして、これは告白とか言う奴では。まあ無駄だと思いますが。私の気持ちは重々承知していて、それでも進展しないのですから。腐れでは到底無駄な足掻きでしょう。
五分も待っているとお姉たまだけ戻って来ました。
「シャワー空いたかな?」
「そろそろですの。それで」
「ああ、まあ、ちょっと」
「告白ですの?」
分かってるのかとか言ってますが、その結果は多少気にはなりますの。
「聞いても?」
「断ったよ。だってあたしはノーマルだから」
「ですよね」
「あんたも希望無いんだけど」
承知してますの。ですが、コンマ数パーセントでも希望を抱ければ、私は諦めたりしないのです。
諦められるのであれば、最初からお姉たまを愛したりしませんの。
そして微かな希望も抱いておりますの。こうしてお姉たまが少しずつ、距離を縮めて下さるのです。
でしたら引き下がる理由などありません。
シャワールームに空きができると、一緒に入り。
「お姉たまあ!」
「バカでしょ!」
抱き着こうとしたら全力で阻止されましたの。
ですが、シャワーを浴びている最中に、こちらを見て「いいけど」と。何を言ってるいのか一瞬理解に苦しみましたが、そっと抱き寄せて下さったのです。
お姉たまを全身で感じ取れますの。昇天しそうです。
「これっきりだからね」
「あの、なぜですの?」
「周りの環境がね」
「環境?」
以前と違いお姉たまの周囲に無数に群がる状態。そのせいで以前のように接することができず、寂しい思いをしていたのではと。
「それと、応援団」
「蚊帳の外に置かれましたの」
「だからだね」
言い出しっぺなのに、上級生の横暴で横取りされた。手柄と言うか、本気で応援したいからこそだっただろうに、と同情もあるとかで。
「ノーマルだけど、少しは気にかけてるから」
お姉たま。
涙が出そうです。
「あ、言っておくけど、あんたのことは女子じゃなく、後輩として好きなだけだからね」
今はそれでも充分ですの。
お姉たまの抱擁が心地良くて、やっと報われた気がしますの。激しいハートビートも落ち着いてきて、お姉たまを見ると、優しく微笑んでくれています。
「お姉たま」
「なに?」
「愛してますの」
「それは遠慮しておく」
さっさと流すものを流して帰るんだよ、と言ってますの。
もっとお姉たまを感じていたかったのですが、いきなりは無理です。まだ時間はありますから、ゆっくり関係を構築できればと思うのです。
シャワーを浴び終えて制服を着ると、眩しいまでの笑顔で「じゃ、帰ろうか」と、手を差し伸べてくれています。
「あ、そうだ」
「なんですの?」
「周りに群がる連中だけど」
明日からは遠慮してもらうとか。
それって。
「あたしの隣はあんた。そうじゃないと、なんか調子狂うんだよね」
おおおおお姉たまあ!
感涙に咽び泣きそうですの。
「なに泣いてんの」
「お姉たまあ」
「ほんと、変態なんだから」
頭を撫でて下さるお姉たまが居ますの。
私は今とても幸せなのです。
「あ、こら、キスは駄目だっての」
「お姉たま。ですが」
「あんたは。もう……」
―― おしまい ――