弾かれましたの
男装の麗人、麗しき白百合。
お姉たまの称号です。
群がる生徒が一気に増殖し、お姉たまの周囲を常に取り囲んでいますの。
「お、お姉、た、ま」
押し退けて傍に行こうにも人垣が。
邪魔ですの。マジで。私のお姉たまが見知らぬ人に囲まれ、このままでは隣に居ることすらできません。
「お姉、た、ま」
ふんぬー! どいて欲しいのです。近付くこともできません。
登下校時は毎回こんな調子で、人気者過ぎるお姉たまが、遥か彼方へと去っていくのです。
お昼もご一緒できない緊急事態なのです。この変態どもを何とかしないと。
「マジ邪魔」
私と同じく、弾き出されたのは腐れビッチですの。ですが、こいつはどうでも良いのです。元より不要な腐れなのですから。問題は私も一緒に弾かれていることで。
なんとかお姉たまの隣を。
「無理ですの」
「これ、収まるまでは無理かも」
腐れが何か言ってますね。確かに少し冷静になるまでは、お姉たまに近寄れません。今は強い印象を受けて舞い上がってる状態なのでしょう。
今さら魅力に気付く程度の存在が、一等最初に惚れた私を差し置いて、なんてことは許せませんの。
どうにかしてお傍に。
しかし、奮闘するも無理でした。
悲しいのです。お姉たまの隣が私のポジション、だったはずですのに。
路上に立ち尽くし、指を咥えて見ているしかありません。
「お姉たま……悲しいのです」
それでも部活ではご一緒できます。
「お姉たま」
「なに?」
「群がる女子ですが」
「あれねえ。ちょっと遠慮して欲しい」
お姉たまの隣で踊りながらの会話。そして見学しながらも、黄色い歓声を上げる女子。とても煩いのです。先輩が注意しても去りませんし。静かにするよう言われて、一時的に静かになっても、すぐに騒がしくなってますの。
ダンス部員にも迷惑になって、手に負えない状態なのですね。
「円華様の隣に張り付くチンチクリン! 近過ぎだから離れて」
「そうだそうだ! 邪魔だ、そこのチンチクリン」
「円華様はみんなのもの。あんたが張り付く権利はない」
「写真に写り込むから離れろぉ」
むっかー! なんて言い草。
「誰がチンチクリンですの!」
「あんただ」
「佐瀬。あんたのことだってば」
「邪魔だから離れてよ」
酷すぎますの。私は入学した瞬間から、お姉たまの虜でしたのに。俄か如きが罵倒するなど許せませんの。
心無い言葉を投げつける品の無い方々は、お姉たまに相応しくありません。
「じゃ――」
「いい加減にしてくれる? 見学させないよ。中傷までして」
お姉、たま?
もしかして、私を庇ってくださるのでしょうか。
お姉たまの言葉に三年の先輩方が、やっと本腰入れて動き出しましたの。
「はーい。全員出てって。汚い言葉で罵る人は、横内に相応しく無いから」
体育館内に居る女子を追い出す先輩方です。次々その場から立ち退かされてますの。
やっと平穏を取り戻せそうです。
「なんか巻き添え食らったみたいで」
「いいんですの。お姉たまの傍に居るリスクですから」
「だからって、チンチクリンは無いよ」
「お姉たま。庇って頂きありがとうございます、ですの」
お姉たま。私に気遣いを。感動ですの。
体育館の外では先輩方の説教が始まったようですね。少しは反省して欲しいものです。
暫くすると三年の先輩方が戻ってきて「見学は静かにすること、罵声や中傷は一切禁止。守れない場合は見学させない」と、注意したそうです。
「大人しく見てる分にはいいけど、いくら佐瀬が変態でも、あれは無いからね」
変態と言う認識は変わらないのですね。違うのですが。
部活が終わると着替えるのです。
お姉たま。相変わらず素敵ですの。その控えめなチェスト、くびれが見事なウェスト、そして張りのあるヒップ。
いたっ!
「じろじろ見ない」
「お姉たま。今さらですの」
「恥ずかしいっての」
お姉たまの脳天チョップを食らいました。恥ずかしがり屋ですの。
「お姉たま」
「なに?」
「たまにはシャワーを浴びませんの?」
「あんたが居るから使わない」
私を警戒して使わないと。ですが、いくら私でも不意打ちはしませんの。宣言してから頂きますの。
「と言うことですの」
「家で浴びるからいい」
「匂いますの」
「ちょっとの我慢だって」
お姉たまは頑なですの。ですが、いずれ頂くのです。
想像するだけで堪りません。
下校時ですが、今日はさすがに群れる存在は居ませんでした。先輩方が事前に排除してくださったようで。それと完全下校時刻なので、校舎内に残っている生徒もほぼ居ませんし。
やっとお姉たまのお隣を。
「なに?」
「あ、いえ」
私の手を取ってくれましたの。
「暫く寂しそうだったから、仕方なくだからね」
お姉たま。照れてますの。とても可愛らしいです。
変態とか言ってはいますが、お姉たまは優しさに溢れてます。私の愛情、多少でも受け止めて頂けていると。
ああ、早くお姉たまと至極の時間を過ごしたいのです。その際には隅々までお姉たまを頂くのです!
「鼻息荒い」
「あ、これは」
「変態だからなあ」
仕方ない、と言ってますね。
「妙な想像してる?」
「いえ」
「嘘吐くなら手を離すけど」
「あ、実は」
当然ですが、妄想全開の内容を話すわけにはいきません。ですので適当に取り繕って説明を。
「お姉たまと素敵なティータイムとか、もう少し親密な関係とかですの」
「額面通りに受け取る気は無いから」
「いえいえ。お姉たまに嘘は吐きませんの」
「まあ、言わずとも理解してるけどね」
でしたら、私の想いに応えて欲しいのです。
「手は繋いでもいいけど、体の関係は無いから」
「お、お姉たま。それでは、私は何を楽しみに」
「やっぱそうなんじゃん」
「あ」
してやられました。ですが、お姉たまは気付いているのですね。でしたらあとは押して押して、ちょっとだけ引いて、そして押しまくれば、きっと。
ああ、鼻血が噴き出しそうですの。
「ほんと、変態なんだから」
呆れ気味ですが、それでもお姉たまの優しさを感じ取れます。
そして数日後。
体育祭での活躍目覚ましいお姉たま。大応援団を率いるのは、私ではなく上級生でした。腐れビッチすらも排除されてましたの。いい気味です。ですが、私の立案でしたのに、発案者が蚊帳の外とは。
「納得いきませんの」
「だよね」
私に乗っからないで欲しいのです。腐れは。
やはり一年だと力関係の都合が。
「佐瀬」
「なんですの?」
「円華先輩だけど」
見てて分かったことがあるとか言ってますの。
「それって何がですの?」
「言いたくないけど」