お姉たまにはドレスを
私とお姉たま、そして腐れビッチは今、演劇部の倉庫に居ますの。
「マジ?」
「お姉たま。全校生徒のリクエストなのですよ」
「全校って、あんたのクラスだけじゃなかったの?」
「いいえ。お姉たまの魅力は全校に轟いてますの」
腐れビッチは今回外様です。この話を知らなかったので、私が主導しているわけでして。
そして衣装を用意する演劇部員も居ますの。興味津々で衣装を用意してます。
「円華。これなんかどう?」
同級生が手にしてる衣装は、煌びやかな舞台衣装です。まさに宝塚。
「派手過ぎない?」
「なに言ってんの。このくらいじゃないと、衣装が負けるでしょ」
「あたしって、どんな存在なのさ」
「星組のトップスター?」
ぶつぶつ娘役がいい、とか言ってますの。私も同意です。お姉たまには女性としての美しさを。
お姉たまの着替えが済めば、講堂でのお披露目が待っています。事前に許可を取って演劇部のリハと言うことで、演劇部員も総動員で舞台に上がるとか。
みなさん、お姉たまに期待しているのですね。さすがは私のお姉たまです。
「お姉たま。こちらの衣装がよろしいと思いますの」
目が痛くなるような、赤のメタリックなタキシード。見た瞬間「派手過ぎるでしょ」とか言ってますが。演劇部員からは金のラメ入りブラックタキシードや、ブルーメタリックのタキシードとか。見事に宝塚を意識したような衣装ばかり。
みなさん、お好きですのね。
「えっと、それじゃあ黒い奴で」
まずは試着と言うことで、金のラメ入りを。
「あのさ」
「なんですの?」
「脱ぐから、出てくんない?」
「お姉たま。着替えのお手伝いを」
鼻息が荒い、とか言われて排除されました。もちろん私だけに非ず。全員叩き出されてますの。お姉たま、今さら恥ずかしがらなくても。部の更衣室ではいつも下着を見てますのに。
少しすると「あの。これさあ」とか言って、ドアを開けて顔を出して困惑気味です。
見ると似合ってるとも、似合ってないとも言えそうな。
ですが、他の方にはとてもよく見えているようで。
「カッコイイじゃん」
「もっとちゃんと見せてよ」
「先輩素敵です」
「せっかくだからメイクも」
みなさん、とっても節穴です。お姉たまは女性らしさを強調してこそ、もっと輝くのです。そこに気付けないようでは、半人前としか言えませんの。
やはりあとでドレスを纏っていただく必要があります。
「お姉たま」
「なに?」
「ドレスも試してみませんか?」
「ドレス?」
作りは悪いですが、お姫様用のドレスがあります。それを着ていただければ、間違いなく際立つ美しさを示すでしょう。
ヘアスタイルがショートであることで、そのイメージに引き摺られ過ぎなのです。
だから単純に男装、などと言い出すのでしょう。
と言うことで、一度男装姿をお披露目していただき、次いでドレスを選び試着をお願いしたのです。
「この純白のドレスはいかがです」
「ウェディングドレスみたいだな」
「似合うと思いますの」
「円華先輩には、こっちのブルーのドレスが」
シン〇レラ姫じゃ無いんですの。それよりも純白こそが、お姉たまを引き立たせるのです。
所詮は俗物。見たことのあるものだけでイメージしてますの。
ブルーのドレス、ピンクのドレス、そして純白のドレスをそれぞれ試着することに。
「あれ?」
「お手伝いいたしますの」
露骨に嫌な顔をしなくても。
着る上で苦労しているので、私がお手伝いをと申し出ているのに。他の方も手伝う意思を見せているので、観念したのかお任せになったようです。
ああ、お姉たま。肌の美しさも際立っていますの。そこに纏わせる純白の衣装。そのまま結婚式会場で私と結婚式を。
むはー! 鼻血が噴出しそうです。ハートも飛び出しそうな。堪りません!
各色の衣装を試着して、結果。
「白いのが一番映えてるかも」
「確かに」
「きれいすぎる……」
「髪型をなんとかすれば」
そして、腐れビッチの悔しそうな表情。してやったりですの。センスのない存在が、素材を理解しないで合わせようとしても、無駄ですの。
勝った。
講堂には多くの生徒が集まっています。
事前に男装の麗人を、などと喧伝したせいですね。お姉たまのお姿をひと目見ようと集まった変態、いえ、女生徒達ですの。
舞台袖で黒いタキシードを着たお姉たま。その周りを取り囲む町娘。
緞帳が上がると、まずは町娘たちが舞台へ登場します。
特に歓声は上がりませんの。拍手だけはありますが。みなさん、あまりにも酷すぎません?
「お集まりいただいたみなさま。これより我が校のトップスターを紹介いたします」
そして登場を促すと照れ臭そうにお姉たまが舞台へ。
一瞬にして歓声が上がり、あげく黄色い歓声ですの。確かにお姉たまのお姿は凛々しいのです。ですが、男装しなくても凛々しいのです。
舞台上で町娘を従え踊るお姉たま。素敵ですの。
拍手喝さいの中、一旦舞台袖に下がります。
「じゃあ次はドレスに着替えて」
「なんか緊張しすぎて」
少し手が震えるんだとか言ってますね。お姉たまならすぐ慣れますの。
着替えを手伝い純白のドレスになると、次は男装をした演劇部員の手によって、舞台に上がって行きます。
上がったのは黄色い歓声ではなく、憧れのため息でした。感嘆の声も多数。
当然ですの。お姉たまの美しさは校内でも群を抜いてるのですから。
そして社交ダンスを踊り、華麗さを示すと再びの拍手喝采。アンコールまで飛び出してます。
舞台上であいさつをして、緞帳が下りると今回のお披露目は終了です。
「ねえ、円華さあ、文化祭でお姫様役やらない?」
「やだよ」
「でも、お客さん、すごい入ると思うんだよね」
「だよね。勿体ないよ。その美貌を活かさないと」
そうなのです。お姉たまは女性らしさを強調してこそ、なのですから。
「どうせだから男役と女役の一人二役とか」
「なんであたしが。演技できないって」
「いいってば、そんなの。居るだけでみんな釘付けになるし」
お姉たま。
なんか見世物に。
「お姉たまはダンス部の活動があるのです。無理は仰らない方が」
私の言葉でお姉たまが「文化祭でも踊るからさあ」とか言ってます。私の言葉に乗って来ましたね。
諦めの悪い演劇部の方々でしたが、これっきりだから、と言うことで諦めたようです。
すっかり影の薄くなった腐れビッチですが、先輩方に囲まれていると発言できないようです。私とは違うのですね。
少々変態扱いではあっても、お姉たまのお陰で馴染んでいますの。