恋敵が出現ですの
無事にお姉たま応援団を結成できました。
クラスの女子だけ、と思ってましたら、他のクラスの女子からも参加希望多数。結果、総勢五十七名の大応援団結成です。
お姉たま。あまりの魅力に虜になる方が多いのですね。
ただ、懸念する事態が発生しておりますの。
「円華先輩」
馴れ馴れしくそう呼びかける、そこの女子。私のお姉たまなのですよ。あなたは横内先輩と呼ぶべきです。
お姉たまの傍に寄り添い、仰ぎ見るように明るい笑顔を向け、これでもかと媚びてますの。なのにお姉たまは満更でも無いご様子。なぜですの?
さらに私の心象を悪化させる事態が。
「佐瀬とはどんな関係なんですか?」
う……。私とお姉たまの関係性は、入学してからあまり進展がありません。今も少々壁があります。ですが先日は手を繋げましたから、一歩進んだとも言えますの。
「ただの後輩。あ、少し訂正。ただの変態」
のぉぉぉぉ。おおおおお姉たま! 変態ではありません。愛なのです。
ふたりの世界をぶち壊す女子が私を見て、優越感を得ているではありませんか。
「変態なんですね。迷惑してますか?」
「あ、まあ、それなりに」
「あたしが駆除しますよ」
「えっと、駆除までしなくてもいいけど」
駆除って、私は害虫の類ではありませんの。お姉たまひと筋の乙女ですの。
こっちを見て勝ち誇るその笑顔。実に憎たらしい。
「円華先輩。体育祭では応援団結成したので、たくさん応援しますね」
「応援団?」
「はい。円華先輩を応援したい生徒が多数でしたから」
私がサプライズで応援団を率いようと、中心メンバーと計画していましたのに。なぜそこでネタをばらすのですか。手柄は自分の物とでも? 私が動いたからこその応援団ですの。ですがお姉たま、ちょっと引いてますね。
「佐瀬」
私に声が掛かりましたの。
「はい、お姉たま!」
「あんたの学年って、変態しか居ないの?」
お姉たま。それは違います。お姉たまに魅力がありすぎるのです。ご自分で気付けないのでしょうか。
「円華先輩。変態は佐瀬だけですよ」
「違いますの! 私はお姉たまに焦がれてるだけですの」
「変態じゃん」
「変態だよね」
ふ、ふたり揃って、変態呼ばわり。
単純にお姉たまに憧れる生徒が多いだけで、だからこそ、応援したいのだとか。己の変態性欲を誤魔化し、私だけを貶めるとは。そっちこそ変態の極み。しかも横恋慕の上に奪おうと画策するなど、言語道断ですの。
睨みつけると鼻であしらわれてる気が。
「円華先輩。変態は放置して帰りましょう」
「うん? ああ、そうだね」
「お姉たま。下校は私とご一緒では?」
「付いて来たいならいいけど」
お姉たまの言に舌打ちする変態が居ます。気付きませんの? お姉たまは。
変態は相当な性悪女ですの。腐れビッチです。お姉たま、それは腐れビッチですの。感化される前に排除すべきと進言したいのですが。
お姉たまを挟んで両脇に並び歩きますが、私の手は遊んでいますの。お姉たまの手を求めているのに。しかも鞄を持つ手が私の方に。あの腐れビッチ側は手ぶらです。
少しお姉たまと距離を縮めたと、そう思っていたのに。
「なんで泣いてんの?」
お姉たまが。私を見て気付いたのですね。ですがまさか涙が零れていたとは。
「な、なんでもありませんの」
「そう? なんか悲しいことでもあったのかと思った」
「円華先輩。気を引こうとしてるだけですよ」
「そう、なの?」
涙を拭う私自身も気付かなかったのに、その言い草。実に性格が悪いのです。
傷心のまま、この日はお姉たまとお別れになりました。
家に帰ると悔しさと悲しさから、頬を伝う涙に塗れ、枕を濡らしたのは言うまでもありません。
あの腐れビッチ対策が必要です。このままでは騙されて頂かれてしまいます。
翌日、お姉たまと合流し登校、などと思っていたら。
腐れビッチ。まさか朝から湧いて出るとは。
「おはようございます。お姉たま」
「おはよ」
あいさつはできましたが、腐れビッチはお姉たまの隣を歩いてますの。私はまたしても鞄を持つ手の側に。お姉たまの手を取れないもどかしさ。
学校の生徒たちが周囲に増えてくると、お姉たまに声を掛ける生徒も増えてきます。
「円華。おっはよー。朝からモテてるね」
「そうじゃないんだけど」
「おはよー円華。モテモテじゃん」
「違うんだけど」
さらには三年生からも声が掛かってますの。
「横内。あたしの愛は受け取らないのに、下級生には優しいんだな」
「えっと、先輩。それ違います」
「上級生だけじゃなく下級生もかあ」
「あの、少し誤解してませんか?」
お姉たまは誰からも好かれるのです。私にとってライバルは多いんです。ですが、この腐れビッチだけは、お姉たまから引き剥がさないと。
とは言え、さしものお姉たまも、女子の嫉妬には困っているようです。
お姉たま。モテると気付いてないのが玉に瑕ですの。
「その気無いんだけどなあ。なんでかな」
「円華先輩は愛されるんですよ。宝塚のトップスター扱いですから」
「どうせなら娘役で」
「円華先輩、それだと勿体無いです。すごいポテンシャルを秘めてるんですよ」
遠慮したいと言ってますね。ですが、そこだけは腐れビッチに同意ですの。それでもお姉たまはやはり、女性としての輝きに満ちてますの。腐れビッチにはそうは見えていませんのね。
お昼になるとお姉たまとご一緒……。
「なぜ居るのです?」
私とお姉たまの憩いの時間を奪うとは。お姉たまの隣を占拠してまで。
腐れビッチを睨んでいると「食べないと昼終わっちゃうよ」とか。そうではありませんの。なぜそこに腐れビッチが居るのか、です。
「食べないんだったら、他所行ってくれない?」
むっかー! なんか腹の立つ言い方。さすがは腐れビッチですの。
お姉たまの隣に密着するように腰掛け。あの、お姉たま。無理やり押し出さなくても。
「暑苦しいんだってば。腕も当たるでしょ」
「お姉たま。少しは」
「邪魔だって言われてるよ」
私のお姉たまが、どんどん遠くへ行ってしまうのです。この腐れビッチに毒されて。
なんとか挽回しないとなりません。ですが、敵もさるもの引っ掻くものですの。
下手な手段に打って出ると、私の印象が悪くなってしまいます。できれば自滅して欲しいのですが。自滅に導ける方策を考えないと。
「そう言えば、男装の件ってどうなったの?」
そうでした。あまり興味が無くてすっかり失念していました。
「円華先輩。男装するんですか?」
「なんか、そうなった」
お姉たまは私の手で。