お姉たま応援団
ちょっとびっくりですの。
お姉たま応援団結成を目論み、クラスの方々に声を掛けましたら。
「あ、いいよね。横内先輩」
「男装させたらカッコ良さそう」
「宝塚の世界に居そうだし」
「あたしも応援したい」
私のお姉たまはノーマルを自認する女子でも、虜にする魅力があったのです。
さすがはお姉たま。ですが誰にも渡しません。私だけがお姉たまを愛し、そのすべてを……のぉぉぉぉ。ああ、いけません。ちょっと想像しただけで鼻血が漏れ出そうです。
もしかして、お姉たまには本当に「たま」があったりして。
いえいえ、それではお姉たまに非ずです。ですが、あの凛々しいお姿。
「横内先輩、男装してくれないかなあ」
「見てみたい」
「頼んだら、あ、でも怒られそう」
「佐瀬は仲いいでしょ? 頼めないかな」
お姉たまの男装なんて興味ありません。男なんてそもそも要らんのです。汚いし臭いし粗暴で卑しくデリカシーすらありませんの。
そこへ行くとお姉たまは慈愛に満ち溢れ美しくも気高いのです。
「お姉たまはそのままがベストですの」
「でもさあ、見てみたいじゃん」
「宝塚張りの麗人になりそうだよね」
「借り物競争とかあればなあ」
まあ、一度くらいは見て損は無いのでしょう。男装の麗人とやらも。
借り物競争。
体育祭のプログラムには無かったような。なぜでしょう? もし借り物競争があれば、男装の麗人も見ることができそうです。
いえいえ、そんなものは文化祭の演劇でやればよろしいのです。
「佐瀬さあ、横内先輩に男装頼んでみてよ」
「無理ですの」
「無理じゃないでしょ。仲いいもん」
「媚びてみたらいけるかもよ」
男装よりもドレスです。際立つ美しさはドレスでこそ生きるのです。
ですが、まあ頼んでみるのもありはありでしょう。お着替えは私もお手伝いさせていただくと。
さっそくお姉たまに提案しに行きます。
放課後の体育館で汗を流すお姉たま。Tシャツにジャージと言った、何の変哲もないお姿なのに、なぜそんなにそそるのでしょう。今すぐ熱い抱擁を。
「お姉たま、少しよろしいでしょうか?」
「なに?」
ダンスの練習途中で声を掛けたことで、少々お邪魔になっているようです。ですが、その程度のことで私を邪険に扱うことはありませんの。
「お姉たまにリクエストが発生してますの」
「リクエスト?」
「私のクラスの方々がお姉たまの男装姿を」
眉間にしわが寄ってますの。お姉たま、若いとはいえしわを寄せると、お肌に刻み込まれてしまいます。
「男装って言った?」
「そうですの」
突如私の視界が奪われました。そして強烈な痛みがこめかみを襲っているのです。これは、あれでしょうか?
アイアンクロー。
「あだだだだだ」
「あのね、あたしをどう見てるか知らないけど、男装なんてしないからね」
「で、でで、ですが、ぜひとも、と」
「あんたの周りには変態しか居ないの?」
急に視界が開けたと思ったら、お姉たまの呆れるお姿が。
まだ痛みは残っていますが、ここはあれです。
「お姉たま。男装と言っても宝塚のように男役が多数居ますの」
「そうだけど」
「私としてはお姉たまには、ゴージャスなドレスが似合うと確信してますの。ですが、クラスの方々の望みが」
「まあ、宝塚に憧れる気持ちは分かるけど」
男物の服なんて持ってないとか言ってます。意外とちょろいのですね。
「演劇部にあるはずです」
「演劇部ねえ」
「借りて一度披露して頂ければ、みなさんご納得されるはずですの」
応援団結成もできて、私もクラスの方々も万々歳。
男装して頂けそうです。お姉たまなら男装なんてしなくても、麗しいのですが。
「まあ、面白そうだし」
「では」
「一回だけだからね」
「ありがとうございます! お姉たま」
クラスの方々には報告を。
教室へ戻ろうとしてお姉たまに、一旦別れを告げ――。
「ぐえっ」
「どこ行くの?」
踵を返した途端に頭だけ後方に残り、足だけが先へ進もうとしてますの。お姉たま。襟を掴むと首が締まるのです。
「な、なんですの?」
「部活」
そう言えば私も同じダンス部でした。
まあ、クラスの方たちには明日にでも報告すれば良いでしょう。お姉たまとの時間を過ごす方が大切ですから。
着替えを済ませ、お姉たまと合流し汗を流しますの。
ダンス部。ひとつ不満があるとすれば、接触の機会がほとんど無いのです。どうせならば社交ダンスやサルサダンス、フォークダンスなどが良いのですが。
今どきのストリート系は触れ合いがありませんの。手に手を取り足を絡め、体を寄せてからの熱い口づけ。期待するのはそれでしたのに。
部活も終わり下校時刻が近付いています。
更衣室ではお姉たまが、ああ、引き締まった素晴らしい美ボディを、披露してくださってます。堪りませんの。今すぐ齧り付きたい衝動を抑えつつ、しっかり目に焼き付けるのです。
「早く着替えないと」
「あ、はいです」
「それと、あんたの視線」
「視線?」
舐め回すように見るな、と。背筋がぞっとするとか言われましても。そこに美があれば目を奪われるのも当然なのです。
「他にも女子居るでしょ」
「お姉たま。他の女子なんて眼中にありませんの」
「変態」
「違いますの。お姉たまへの愛がすべてなのです」
このようなことを口にすると、他の部員も呆れますが、自分に嘘は吐けません。
「どんだけ円華のこと好きなんだよ」
「こっちにお鉢が回らないだけいいけどね」
「あたしは迷惑してるけど」
「悪いけど、その変態を引き受けてくれると助かるわあ」
一途みたいだから、お姉たまだけが被害者で留まれば、などと言ってます。被害者ではありませんの。愛の前に性別は関係ありません。すべてはお姉たまのために。この身をもって尽くすのみ。
着替えを終えて下校しますが、お姉たまとは途中までご一緒。
「何がしたい?」
お姉たまと手を繋ぎたかったのですが、いくら私でも躊躇してしまうのです。
手を出したり引っ込めたり、少々挙動不審でしたが。
「いえ。お姉たまの迷惑になりますの」
「分かってんならいいけど」
お姉たま。私の本心は違うのです。少しは汲んで頂ければ、などと思うのも無理なのでしょうか。
やっぱり、挙動不審な私ですの。
「あ」
「まあ、このくらいは」
お姉たまが言い訳をしていますの。曰く「普通の女子同士でも今は手を繋ぐし、腕組んでることもあるし、まあ普通だと思うから」とか「冬なら手が冷えるから、本当はそっちの方がいいんだけどね」とか。
照れ屋さんです。でもとても嬉しいですの。