部活動 紹介
1-4、並びに一年生全クラスが体育館に集合していた。
探検ツアーの時同様、列にはなっているが気持ち緩く、整列とは呼べない粗雑感があり、仲良く談笑している生徒がそこかしこにいる。
俺の横には先ほど渾名を作ったのにも関わらず、最終的には興味を失せるような男、秋倉色が座っている。
結局、苗字か名前か渾名か、呼びやすいのでいいとのことなので今は試用期間となっている。
渾名の候補は巴、あきら、きくらげ、シーくん、となっている。
他にも浮かばないこともないが、本人が冷めた以上続けても面白みがない。呼びやすいことが大事だと思うので「あ」でもいいのかもしれない。…密かに候補に入れておくか。
そんな中でもシーくんと呼ぶと顔を赤らめ「それはやめろ」と言う反応を見せた。この中で1番気に入っているのかもしれない……ヒヒヒ。おっと変な笑い声が。
そういえば日音さんにいつもそう呼ばれてたようでしたね自慢ですかこの野郎。
その日音といえば俺たちの斜め後方に座っていて、間に二、三人のクラスメイトがいるがバッチリ観察できる。向こうは周りのクラスメイトと雑談する気はないようで、静かに始まるのを待っている。いや、終わるのを待っているのかもしれない。表情が全然盛り上がっていないな、あれは。
ふとこちらに気づいたのか視線が合った。
俺は一応秋倉にも肩に合図を送ってから、日音に手を振っておく。気づいた秋倉も日音の方に顔を向けるが、すぐに前を向いてしまう。
それで怒ったりする日音ではなく、わずかに口角を上げた後、多分俺だ・け・に手を振り返してくれた。
小さくではあったが…何あれ可愛い。
ここで誤算が生じる。なんと日音が座っている近くには妹尾さん、加藤さん、二階堂さんたちが仲良く集まられていた。
俺が(日音に)笑顔で手を振っていたのに、妹尾さんが気づいた。
そして、
「あ、胡川くーん!やっほー!」
と超絶笑顔かつ、大声で返してくれた。
周りの生徒の注目が妹尾さんと名指しされた俺とに集まる。加藤さんは慌てふためき、二階堂さんは面白そうにニヤケ面で、隣の秋倉は騒々しく、日音に関しては完全無視だ。まだ始まってもいないステージをただ見つめている。
なんとか手を振り返し返せた一言は
「や、やっほー」
それだけ。何かを少し後悔している俺がいた。
それから5分くらい待った後、突然ステージ上に1人の男子生徒が現れ、部活動紹介が始まった。
彼は放送部所属の2年の先輩で司会を担当するらしい。
児玉と名乗った先輩は慣れた様子で挨拶を終えると、流れるように進行していった。
順番は文化系・運動系バラバラだった。
新聞部、バレー部、テニス部、情報処理部、演劇部、陸上部、美術部、サッカー部………人気な運動部を間に挟むことで飽きさせない工夫かな?あ、文化部もそれなりに盛り上がってる。
中にはその紹介中に奇抜さが滲み出ている部もあったり、同好会も少数だが発表していた。
盛り上がりを見せる一年生達。俺は聞こえるであろう声量で隣の秋倉に話しかけた。
「なあシーくん、どの部に入るか決めてる?」
「その呼び方はやめろ」
早速反応を見せるシーくん。そんな嬉しそうに顔を赤らめないでよ。俺は部の話よりも弄ることに決める。
「ええ?日音はいいのに?」
「いいとは言ってない。あいつはその、慣れが抜けきれてないからだろ。これから矯正させる。けどな、お前の場合は単純にキモい」
うげえと苦虫を噛んだような顔をするシーくん。お前それ顔芸だよな?妙にマジっぽいのは気のせいだよなあ?
「ひどっ!あの子にだけ優しくして!差別だ」
「は?別に優しくなんてしてねえし」
「嘘だね。日音の前では嫌そうじゃなかったね!若干キモ男になってたよ」
「キモいのをなすりつけんじゃねえよ、クソエビが!」
口悪ぅぅ。それと日音の名前出すたびにチラチラ後ろ見るのやめてくれない?向こう全然こっちに興味無いから。だいぶ前からこっち見なくなってるからあの人。ステージ釘付け。でも全然興味なさそうな顔してるの。抜け殻なんじゃないのってくらい。
てか糞を付けるな。罰当たりめ。
「神の名前を侮辱したな?不幸になるよ?」
「漢字が違えーし、お前に『す』はもったいない。揚げられたり、茹でられる方がお似合いだ」
言ってやったぜみたいな顔してるけど、糞が付いたもの揚げたりすんのかなぁこの人。
それよりフライも良いけど、天ぷらも良いな。てか、寿司がいいかな。うまいんだよなぁあれ。
「俺、甘エビが好きだなぁ。ぷりぷりしてて好き」
「好みは聞いてねぇ」
「寿司なら何がいいシーくんは」
「うがあぁぁああ!!」
秋倉が暴れ出した。ええ?普通に話しかけただけなのに。
多くの部活動がその紹介を終え、残るは一つとなったらしい。興味を誘う部活はちらほらあったけど……実際に入るとこまでは想像しない。
だから多分どの部活にも入らずに終わると思う。
もったいない気もするけど。
児玉先輩の声が耳に入ってくる。
「最後は部活動を取りまとめたり、学校をより良くするために貢献してくれている方々の発表です。生徒会執行部の紹介です。柿原会長お願いします」
「はい」
若々しくも堂々とした声が答える。
ステージ横から現れた男子生徒は入学式で祝辞を披露した生徒会長の柿原先輩だった。後ろに2人の男女を引き連れている。あの時は見かけなかった先輩たち。会長に続いて落ち着きのある雰囲気を漂わせている。
「僕たちは生徒会執行部です。厳密には部活動とは異なりますが、幅広い活動をしております。校内行事、地域交流、学校の代表であり、サポートをする活動が主です。時には地味に見える仕事も有りますが、きっと後にやりがいにつながる活動だったと思える、そんな環境を提供できるよう努める所存です。
ぜひ我々とこの学校を皆さんの意のままに、あ間違えました。皆さんのより良い場所へと成す、そんな活動をしてみませんか?
興味のある方は、二階の生徒会室の方に遊びに来てください。お茶を飲みに来るだけでも歓迎です。ご清聴ありがとうございました」
甘い声がすらすらと耳に入ってきて、あっという間に終わっていた。児玉先輩は聞きやすい喋り方だったのだが、この先輩は惹きつける喋り方だった。
カリスマとでも言うのか。本当に清聴だった。一年生の男女共に、静かに彼が話し終えるのを待っていた。…いや、待っていたと言うより突然終わったと言う感覚の方が近い。
現に、柿原先輩達は降段しているのに進行がストップしているのだから。遅れて生徒達がざわつきはじめている。しかしその内容は進行についてではなかった。
「お茶を飲みに行くだけでもって、ほんとに良いのかな」
「後ろの先輩、名前なんて言うんだろ。めっちゃ可愛かったよな」
「会長、笑った顔素敵すぎない…!最後のやつ」
「堅いのかなって思ったけど、意のままにってやつ笑っちゃった」
「な、俺たちでこの学校を操っちゃう?」
「いいなそれ、あははは」
たかがスピーチでここまで生徒の反応を得られるってヤバすぎない?って思ってる俺自身もさっきの時間は心地よかった。高揚感からか、秋倉に話しかけるほどにはテンションが上がっている。
「柿原生徒会長、面白いな。顔もいい方だけど、雰囲気もいいって言うかさ」
「俺あの人苦手」
「え?マジ?」
予想外だった。秋倉も俺と似たような感覚だと思っていた。スピーチ中、横目で見た時そんな感じはしてなさそうだったし。
「胡散臭そう…とか?」
「いや、そこまでは思わんかった。人の良さそうな性格は多分見た目通りだと思う」
「じゃあ、何が苦手なの?」
「最後のやつ」
最後のやつ。お茶を誘ってたやつか?勧誘が苦手ってのは変だろ。それとも挨拶の後、すぐ降段したことか?名残惜しさはあっても苦手って…。
「あいつ、こっち見て笑ってた」
「挨拶の時の?」
そういやそうだけど。笑顔が苦手って酷いな。
俺が軽く突っ込んでやろうかと思って話しかけようとした時、秋倉がチラリと後ろを振り返った。
その方向にいる人物は一瞬で分かった。
同時に児玉先輩がようやく進行を再開し、締めの挨拶を執り行いはじめた。が、俺と秋倉はそんなのお構いなしに一点を見つめていた。
日音は満足げな顔をしてステージ上を見つめていた。
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