春の道
2人の高校生が俺の横を通り過ぎていく。
「待ってよ、シキくん!」
「おま、学校ではその呼び方やめろよ!」
女子高生が男子高生を追いかけていく。恐らく男子高生の名前を呼んだのだろう。男子は立ち止まり振り向いた。
しかし、男子の表情は赤くなっており、言動から察するに恥ずかしいのであろう。普段は名前で呼ばれることに違和感ないということは彼女達は交際しているのだろうか。
女子高生は彼の不満の原因が分からないのだろう、その理由を聞いている。
「どうして?」
「ここは高校だ!公共の場だ!恥ずかしいから呼ぶな!」
「何が恥ずかしいの。シキくんはシキくんでしょ。それ以外に呼び方なんて無いじゃない」
「みょ・う・じ!秋倉って苗字があんだから、そっちの方を呼んでくれ」
「えー!シキくんの方がいいよ!」
「嫌だよ!俺も加賀美って呼ぶから」
「えー!?」
「あと、同じクラスになるか分かんないけど、教室で話しかけたりしないでくれよ」
「なんで?」
「…恥ずかしいだろ、幼馴染と教室で仲良くしてたら。周りには知らない奴だらけなんだぞ!」
「いいじゃない。仲がいいことは悪いことなの?」
「そうじゃないけど…俺は男友達を今度こそ増やすんだ!そんで彼女も作って、高校生活はカラフルにしたいんだ!」
「彼女って…好きな人いるの?」
「それはこれから見つける。全校生徒600人の中にきっといる!可愛い子だったらいいなぁ」
「………、………」
「何?なんか言った?」
「いいえ」
「絶対言ったろ、お前に彼女なんかできないって…」
「言ってないし、卑屈すぎるよ。シキくん黙ってたらかっこいいんだから頑張れば?」
「…おふ。…頑張ります」
「早く行こ、クラス分け見たい」
「あ、待てよ、ひのとー!」
女子高生の方が先に走り去っていった。今度は男子高生が女子高生を追いかける側になった。名前を呼びながら追いかけていく。宣言をしていた名前と違う呼び方だった。癖が出たのかもしれない。
俺は2人の姿をなんとなく目で追った。
カップルかと思っていたら幼馴染だった。
なんとも、初々しさを感じてしまった。
と言っても、俺も彼らと同じ場所が目的地ではあるが。
時間には余裕がある。追いかける必要もない。
でも、なんとなく俺も走り出していた。
胡川信次。15歳。
虹彩高校、入学。
クラス、一年4組4番。
これから出来るであろう、3年間の思い出に俺は期待を膨らませていた。
読んでいただきありがとうございます。