第三話
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よっこいせ、と太陽が一番上に登って「俺がいるのはてっぺんだ! まだだっ! まだ降りてねぇ!」って必死に言い張るくらいの時間、始業式が終わった私たちは時計屋さんへ向かった。
林檎ちゃんの家にお見舞いに行く前に、私の用事を終わらせてしまおうということになったのだ。くらげちゃんは私が朝にブレザーをジャム塗れにしちゃったから、一旦家に帰って服を着替えて来てお店で合流することになっている。
ちなみに千里くんも一度帰って着替えてからくらげちゃんと一緒に来るそうだ。
人も車もまばらな街並みの中をいくつかの横断歩道を渡って店の前に到着すると、良い具合に古ぼけたアンティークな扉をチリンチリンとドアベルを鳴らしてお店の中に入っていく。
「 いらっしゃいま……ああ、穂乃花ちゃんか。いらっしゃい。早いね」
お店のマスターである叔父さんが目尻の皺を深めて迎えてくれた。
白井時計店はいつも古い洋楽、ビートルズやビリージョエルなんかが緩やかに流れている時計の専門店で、アンティーク時計の修理と販売が主な収益の柱なんだとか。ちなみにカフェ併設の小洒落たお店だ。丁寧に整えられた髭の似合う、茶目っ気のあるスマートな叔父様である。お父さんの弟で、家から近いのもあって小さいころからよくくらげちゃんと遊びに来ていた。
「 おじさんこんにちは! 今日は入学式だから午前だけで終わりだったんだよ。これから林檎ちゃんのとこに行くことになったからその前に取りに来たんだけど……修理、終わった?」
「 ああ、ちゃんと終わってるぞ。ところで……ふむ。隣にいるのは……?」
「 あ、はじめまして。斎藤心之介です」
そういえばくらげちゃんと違ってのっけちゃんはこの店に初めて来るんだっけ。紹介しておかないといけないね。
「 くらげちゃんの弟だよ!」
「 あー、みつきちゃんの! どおりで見覚えがあるはずだな。双子だけあってよく似てるなー。白井時計店へようこそ。……ところで心之介くん、ちょっといいかな?」
ん? 叔父さんが何か黒いオーラを出してるな。
「 え? あ、はい。なんでしょう?」
「 てめえ、うちの可愛い姪っ子に手ぇ出したりしてねーだろうな? あン? 色男?」
前につんのめりそうになる。……のっけちゃんはないわー。いやいやたしかに細マッチョのイケメンだよ? でもそんな風に見たことがない。
「 はい? いや、出してないですよ? っつか俺、彼女いますし」
林檎ちゃんに何度振られても果敢にアタックしてたもんね。うんうん、リア充爆発四散しろ。
「 なに? てめぇ、うちの穂乃花に魅力がないってのかっ!? あぁん!? ……って、いや……あれか……(こそこそ声)おっぱいデカいのか?」
「 デカいっす! 巨乳っす!」
「 ……あー……」
……ほほーん。叔父さん、今こっちをチラッと見たね? そんで見てから残念そうに「あー」とか言ったね? そうですかそうですか。そんなに黒い黒い私が見たいのだね。そーかそーか。飾り棚の時計を徐ろにふたつほど手に取る。背中には般若面のスタンドでも出しておこうか。
「 ……ねぇ、おじさん? ここにあるオメ何とかって時計と、ロレ何とかって時計、ぶつけ合ったらどっちの方が頑丈かな? あと、のっけちゃんは頭蓋骨チャレンジ、やっとく?」
のっけちゃん、ちみがこっちをチラッと見たのも気付いてるのだよ? 般若面のスタンドをファンネルみたいに複数展開しながら笑顔でにじり寄る私。
「「げっ!! ちょっ! や、やめ! わっ! わわわわ!」
「ちょっ! 頭蓋骨チャレンジってなんだよ!?」
チリンチリン。
「「こんにちわー」」
「……って、あんたたち何やってんの?」
良いタイミングで千里ちゃんとくらげちゃんが店に入ってきた。くらげちゃんが訝しんだ目でこっちを見ている。
「おおっ! 海月ちゃんか。いらっしゃい! 久しぶりだね。ん? 隣の子は??」
「こんにちわ、おじさん、お久しぶりです。この子はハトコの千里くん、ピアノが主食の男の子です」
「はじめまして、遠矢千里です」
助け舟発見! とばかりにくらげちゃんに声をかける叔父さんと、丁寧なお辞儀をする千里ちゃん……いや、千里ちゃん女子力高すぎないかな?
「男の子なのかい?」
「あはは、よく言われます……」
千里ちゃんは初めて紹介する時はちゃんと言わないと女の子にしか見えないのだ。
「くらげ、ごめんね……私のせいで」
くらげちゃんが着替えに帰ったのは私のせいだからね。ちゃんと謝っておかないと。
「お母さんから伝言。クリーニングの手間賃として週末にでも顔を見せなさい、あなたが好きなカスタードパイ焼いて待ってるわよ、だって両手をワキワキさせながら言ってたわ」
「くっ……! またベロンベロンに撫で回されるのか……」
くらげちゃんのお母さん、佳乃さんは私のことをすごく可愛がってくれている。なんでも私はお母さんの若い頃にそっくりらしくて(写真のお母さんは確かにそっくりで、その頃からバインバインだった。何故そこだけ似なかったのか……解せぬ)、昔の優希花だーって言ってすぐに抱きついてくるのだ。その後はだいたい全身くまなくをまさぐられる。嫌じゃないんだけど、なかなか恥ずかしい。
「諦めれ」
くらげちゃんも苦笑いだ。
「んで? 林檎のとこに行く前に何か取りに来たいって言うから来たけど、もう終わったの?」
あ、そうだった。叔父さんの方を見ると「分かってるよ」とばかり笑顔で頷いて、ひとつの小さな四角い箱を丁寧に出してくれた。
「ほれ、こいつだ。一二六の爺さんの形見だって話だったな。修理は終わってるぞ。中でぜんまい軸が外れてただけだったからな。簡単に修理出来たな。ああ、あと錆びてたプレートなんかもついでに磨いておいたから、綺麗になってるだろ?」
手の平に乗るくらいの木で出来た古い箱。それをことりとカウンターに置きながらウインクで、蓋を開けてくれる。そこには銀色に光るプレートがあって【I2K】と書いてあった。じゅうにけー?? なんだろ?
「うわー、本当だ! ピッカピカだよー! おじさんありがとう! お金は本当に良いの??」
先週、初めてのアルバイト代が入って叔父さんの所へこれを持って来た時に、お代はいらないって言われてたのだ。
「ああ、俺は一二六さんのファンだったからな! 寧ろこんな機会をくれて感謝しかないさ。こっちこそありがとさん」
こんなふうに言われたら引き下がるしかないから、今度クッキーでも焼いて持ってこよう。お礼は大事だからね。チリペッパーはまだ残ってたかな?
「えっ!? あ、あの! イチジロウって、まさか柳一二六?? 下の名前が漢数字で一二六って書く……?」
「ほぇ?! なんで千里ちゃんがうちの曾お爺ちゃんを知ってるの??」
千里ちゃんが食い気味に質問してくるなんて珍しくて、変な声が出てしまった。一拍。
「「え〜〜〜っ!!」」
私と叔父さん以外の全員が叫んだのだった。
四月の華企画
https://youtube.com/playlist?list=PLVSUz-V5BkITM3senuDz0Qv2WAncCDZxy
こちらで同作品の声劇を公開しています。専門学校の学生さんが一生懸命演じてくれていて、演者には二人ほどプロも参加して下さっています。
作者も泣かされた素敵な演技を見に来てやって下さい(*⁰▿⁰*)
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