第二話
短めでトントンと行こうと思う。
体育館での長いなが〜い、校長先生の話が終わって教室に向かう廊下の道すがら、私はぐいーっと大きく伸びをした。
「はぁ、やっと終わったー! 今日から晴れて高校生っと!」
今日は始業式だけだからもう学校は終わりなのだ。本格的な授業は明日から始まる。
「とは言ってもまあ、あたしたちは中高一貫だし、隣の校舎に移っただけだからあんまり実感はないけどね。それより穂乃花、この後どうする? 心之介は林檎んとの行くんでしょ?」
「……ん〜、そうだな。あいつ暇してるだろうし、行ってやるかな」
「あらあら、のっけちゃんったらお熱いですねぇ〜。ひゅーひゅー」
「うっせ! つか、ひゅーひゅーとか古いわ!」
「穂乃花は?」
「私は今日はこの後、ちょっと寄りたいところあるんだー」
「へー、珍しいわね? どこに行くの?」
「時計屋さんだよ。白井のおじさんのとこ。くらげちゃんも一緒に行く?」
そんな取り止めもない話を海月ちゃんとのっけちゃんとお喋りしながら歩いていたら教室に着いた。ガラガラとスライド式の扉を開けて新しい教室に入っていく。
「 あ、みんなおはよ。またおんなじクラスだね!」
「おぉ! 千里ちゃんだ! おはよう! 本年度もよろしくお願いします」
千里ちゃんは遠矢千里くん。女の子にしか見えない男の子だ。めちゃくちゃピアノが上手くて、肩まで伸ばした髪と柔らかな物腰の、華奢で小柄な……下手したら女である私よりも可愛いんじゃないかと疑ってしまうくらいに美少年である。くらげちゃん達のハトコにあたるのだそう。
「 ふふ。うん、こちらこそ。みんな、またよろしくね。ところで何の話をしてたの?」
「 あー、今日は珍しく林檎が風邪でへばってるらしくてさ。心之介がこれからお見舞いに行くって話をしてたとこ」
「 へー、そうなんだ……って、え? あの花村さんが? ……ほんとに珍しい事もあるもんだね」
花村林檎。何回か名前が出て来ているひとつ年下の元気いっぱいの女の子だ。林檎ちゃんと千里ちゃんも私達の幼馴染で、去年まで5人で合唱部をやっていた仲良しグループだったりする。ついでに言うと林檎ちゃんはのっけちゃんの彼女だ。
「 ええ、世紀末がとっくに過ぎてて良かったと、本気で思ったわ」
「 アハハハ……あー、うーん……そうだ! どうせなら僕たちもお見舞いに行かない? 高校での部活の話もしたいし、花村さんの様子も気になるし。それに最近、心之介が付き合い悪いから寂しくってさ」
千里ちゃんがヨヨヨって感じで泣き真似をする。そして乗っかる私。
「 あー、そうだよねー? さんざん穂乃花たちと遊んでおいて、新しく彼女が出来た途端にポイッ! だもんねー……」
私もヨヨヨ。
「 酷いよね。さんざん遊んでおいて飽きたらほったらかし……ねぇ心之介、僕はもう、いらない子なの?」
眉を八の字に曲げて泣きそうな顔(演技)でのっけちゃんのブレザーの端っこを摘む千里ちゃん。あ、これはずるいやつだ。可愛過ぎか!
( ……え? ちょっ……あの子酷くない?)
(あっちの女の子とあっちの可愛い感じの男の子にまで手を出してたの!? それで飽きたから捨てた?)
(イケメン! ……っていうかまさかの両刀? うそ! キタコレ― !!)
周りからこそこそと話す声が聞こえる。最後に女の子の声に混じって野太い声が聞こえた気がするのはきっと気のせいだ。古の言葉遣いも気にしちゃいけない。
「 ちょっ! おまえら、ワザとやってるだろ!! つか千里、お前のはマジで洒落になんねーからやめてくれ!」
彼女持ちなのに、女の私より千里ちゃんの方が洒落にならないってのはこれ如何に?
「 あはは、まあ、付き合い悪くて寂しいのはほんとだから、今度缶コーヒーくらい奢ってね」
「 クレープで手を打とう!」
「 あたしは千里んとこのイチゴタルトで」
「 穂乃花はさらっとグレード上げんなよ! つか、なんで姉ちゃんまで乗っかってんだよ!」
「 それはまぁ、アレだな。リア充……」
「「 爆発しろ!!」」
私と千里ちゃんが息ぴったりに叫んで
「 ……ってね。まぁ、もげろ」
くらげちゃんが拾う。
「 お、お前ら……」
こうして、いつも通りの学生生活がここに始まったのだった。
四月の華企画
https://youtube.com/playlist?list=PLVSUz-V5BkITM3senuDz0Qv2WAncCDZxy
こちらで同作品の声劇を公開しています。専門学校の学生さんが一生懸命演じてくれていて、演者には二人ほどプロも参加して下さっています。
作者も泣かされた素敵な演技を見に来てやって下さい(*⁰▿⁰*)
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