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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

チャーハン屋のしらすウェレ

作者: ライトニングサーモン

本作は機電様との合同執筆でございます


どうぞお楽しみください



注意:本作は機電様との合同となっています。機電様との合同作品の際は作者名をライトニングサーモンとしています。これは機電様名義での投稿でも同様です。ご了承ください。

新年が明けたその日、巨大パラテック企業であるアバ社の社長室では私からの一方的な問答が繰り広げられていた。私は社長の机をバンと叩いた。


私「なにか言ってくださいよ!」


社長は会議が始まってから二言三言喋っただけでそれ以外は沈黙を決め込んでいた。これでは埒が明かない。隣の秘書も目をつぶっていて、まるで電源を落としたロボットだ。


アハ社長「ふぅ、、」


アハ社長は首を上げた。そして机の上のメガネに手を伸ばし顔にかけて、ついにその重たい口を開けた。


アハ社長「秘書、例の弁護士団を呼べ」

秘書「了解しました。直ちに」


秘書は手元の形態を軽妙に操作し、どこかに電話をかけ始めた。


秘書「はい、、、はい、、、はいそれでは」


秘書が電話を切ると、社長に何か耳打ちをした。そうすると、社長と秘書は私を残して部屋から出ていってしまった。私も慌ててついていこうと荷物をまとめていると、「すぐに戻るから待っていろ」と言われた。


何なんだ全く、と思いむしゃくしゃして足をどんどんしていたら。いきなり何かが社長室に突っ込んできた。


弁護士「フンッ!」


私は驚きのあまり椅子ごと後ろに転倒してしまった。いきなり、会社の窓を叩き割ってスーツ姿の大男が入ってきたのだ。背中にはジェットパック、そして水玉模様の蝶ネクタイ。


私「!?」


男の容姿に目を取られたが、まさか、この顔、彼は。彼は有名な弁護士集団から独立した、天才だった。確か、どこかのインタビューで答えていた。昔とある弁護士に助けられ、彼の意思を継ぐために活動していると。


弁護士は自分の服についた誇りやガラスの破片をぱっぱと払うと、ころんだままの私に手を差し伸べてくれた。そうして私を起き上がらせると


弁護士「秘書!例のものを出してくれ!」


と言った。いつの間にか戻ってきていた秘書がスーツケースから何故か皿にもられた大盛りのチャーハンを取り出した。なんでチャーハン?なんでチャーハン?


そうすると彼はいきなり彼はチャーハンをかきこみはじめた。そのチャーハンには、ところどころ赤い何かが混ざっていて、恐らくはかにチャーハンだ。


しかし、私はなにか違和感を感じた。


私「!?」


そ私は違和感の正体に気がついた。そのかにチャーハンは、カニカマチャーハンだった。巷で噂のカニカマが、こんなところにも。


弁護士「君は5年前の惨劇を知っているかい?」


弁護士はチャーハンを口いっぱいに頬張りモゴモゴさせながら唐突に話題を切りだした。


弁護士「小さな田舎のチャーハン屋で起きた謎の事件」


忘れるはずがない、あの衝撃を。


私「もちろん覚えています」


当時、気まぐれで見た新聞に載っていたやたらとガタイのいい男のヌード。興奮のあまり私の父が庭先で鼻血を出してしまったことは今でもはっきりと覚えている。そして、その記事はスクラップにした上で神棚に飾っている。


弁護士「君と二人で話がしたい、少しいいかな」 

秘書「どうぞ」


私は半ば強引に部屋の外へ連れ出されてしまった。そして、それと同時に社長は部屋に入っていった。どういう事だ?


弁護士「ぼくは君の仲間だ」

私「それはどういう意味ですか?」


弁護士は腹をポンポンと叩いた。筋肉でパッツンパッツンになった腹からはとてもいい音がした。


弁護士「ここには、私の恩人であるチャーハン屋の店主の内蔵が入っているんだ。それともう一つ、ニュース記事には書かれていなかったけどね、彼はオピオイド反対団体に入っていたんだ」

私「そうだったのですか」


私は脳の処理が追いつかず、一時フリーズ状態に陥っているのだが、そんなことはつゆ知らず、さらなる真実を彼は口にする。


弁護士「実は店主は生きているんだ」

私「えっ、新聞では臓器移植をした時に死んだって」

弁護士「君にも会わせてあげるよ」


そう言うと弁護士は私を抱きかかえて再度ジェットパックに点火した。大した助走もつけずに弁護士はまた別のガラスを割って飛び出る。人生で初めての体験だ。


あまりの風圧と、最早どうでも良いという気持ちが相まって私は目を瞑っていた。そして数時間後、私はきたこともない農村部に連れて行かれた。民家はどこもかしこも木造建築で電柱の一本も通っていないとんでもないど田舎だ。


弁護士「店主は、ここで今も食堂を運営しているんだ」


彼に案内されるまま、私は寂れた店へと連れて行かれた。ドアを開けると弁護士より少しだけ年齢が高いであろう、男性がいた。


男性「久しぶりだね、少年」


________________________________________________

彼らが移動したことを確認して私達は一息ついた。


社長「・・・アイツらはもういないな」

秘書「えぇ、行きました」


私達が会議室に戻ってきたときには、既に弁護士と、少年は消えていた。ここまでは計画通り。


社長「予定通り、婆さんを呼べ。作戦の最終確認をする」

秘書「了解しました。直ちに」


秘書は婆さんがいるであろう、訓練室へと向かっていった。本日は、開戦の日だ。作戦は念入りに、失敗したら日本がそのまま吹き飛ぶ可能性だってある。そう考えると、手が震えてきた。あの化け物と、まさかここまで近距離で応対することに、覚悟はしていたがそれでも尚おっかない。


お婆さん「悪かったね。今の今まで瞑想していたんだよ」

社長「貴方の緊張は私も理解しています。腰掛けてください」


婆さんは私の机の前の椅子に腰掛ける。私は手元の書類を婆さんに渡し、判子を押すように促す。決死の作戦への参加を表明する文書だ。婆さんと私ははんこを押した。


社長「本日、攻撃的神的実体であるしらすの捕縛及び、冷凍睡眠装置への補完のための襲撃作戦を開戦することを宣言する」

婆さん「それは分かっているわい。しかし、私はここまでの作戦をあまり聞いていない。作戦を最初の最初から話してくれんか?」

秘書「了解いたしました」


秘書はそう言うと、プロジェクターを展開しそこにスライドを展開した。


秘書「第一フェーズとして、対象であるしらすがこの世に生を受けたとき当社の奇跡論的スキャリングレーダーがその存在を完治したことから始まりました。本来ゲートを通じてこちらに侵入してくる存在であるにも関わらず、この形態でこちらに侵入してきた原因は不明です。」


「また、彼の肉親を含めた全ての親戚が出産から一週間以内に変死を遂げています。同時にレーダーでのエネルギー波数が増えたことからこれらには相関関係があると考えられています。この自体を重く捉えた当社はネオ・ジャパンの神学部門と接触し、対応策を図りました」


「対象はあくまでも順調の成長を見せており、恐らくは寿命があるものと推定されていたため彼の父親、母親としてカニカマの力を移植したこちらの職員二名を派遣し、その成長を見守ってきました。これらの手順は全て、対象が一般人であるという認識を崩さないようにするために考案されたものです。母親の方は途中で内臓疾患により離婚という形で退役しました。父親を担当している職員はその肉体の維持のために摂取していた薬物の副作用で突然死をしました。これに対して対象は激昂しました」


「それと同時に、しらすのエネルギー波数も一気に上昇したため、その精神の不安定さを含めて、対象がしらすに対して自覚を持つことを懸念した対応部局は当該実体の冷凍睡眠装置を用いて無力化することを決議。対象のしらすの友人を一時的に職員として雇用し、”お前の父親は当社のオピオイドの多用によって死んだ”というカバーストーリー吹聴することで当社へと訪問するように仕向けました」


「そして、当社最大の戦力であるチャー5の内二名、弁護士と店主を、被害を抑えるため住人を予め退避させた九州の農村部へと移動。社長と対象の会議中に弁護士が乱入し、拉致するという形で九州まで移送しました。そして、現在弁護士と店主が”自身らはオピオイドに対して否定的であるため見方であるという説明をし、対象の懐柔を試みています」


お婆さん「なるほどねぇ。えらく手が込んでいるけどそれらは全て対象に自身を異常と認識させないため。ふーん、そんなに凄いのかい」

社長「少なくとも、過去日本が被ってきた神格による被害を上回る、まさに日本の滅亡とでも言うべき事象にこれは直結しかねません」


社長「ではこれより、本日の明日の朝八時からの作戦についての説明を始めます」

________________________________________________

弁護士と店長は非常に中が良いようで、急展開で反応しきれていない私を置いてけぼりにして話し込んでいた。


弁護士「お久しぶりです。店長」

店主「お前も元気してたか?ちゃんとチャーハン食ってるか?」

弁護士「もちろん!一日一善チャーハンを食べていますよ!」


弁護士さんと店主は非常に親しげに固く手を握り合っていた。弁護士はこちらを振り向く。


弁護士「この御方が反オピオイド団体党首の店長さんだ」

私「えーっと、あなたってあの世に、、、」


しまった。私は疑問をポロッと口にしてしまった。失礼すぎる、今すぐに撤回しないと。


店主「あぁ、でもその後ね、別の交通事故が起こってね、その被害者の方がどうやらホームレスの戸籍なしだったらしくて内蔵を特別に譲ってもらえたんだ」

弁護士「まったくもって奇跡的としか言いようがありませんね。不謹慎かもしれませんが、私は貴方が生きててくれて本当にありがたいと思っています」

店主「じゃあ、お腹も空いているだろう。時間は夜だしサイタマから九州までのフライトじゃ昼飯もろくに食えてないだろ。得意料理のチャーハンを振る舞ってやる」


店長は厨房に入り、テキパキと料理の準備を始めた。中華鍋に油を通して、米、卵、ネギ、チャーシュを入れて炒めている。おたまが切る小気味よい音。


弁護士「彼は弁が強いからきっと心強い味方になる。明日、もう一度アバ社に彼と戻り、社長と対談しよう」

店長「おう!今夜は泊まっていけ!」


私は唐突な展開で混乱いていたが、すごく優しい店長さんと、美味しい料理にほだされて安心しきった。その夜は店長のご厚意に甘えさせてもらって泊まることにした。

________________________________________________

翌朝、作戦のために私は現場へと向かっていた。社長は「もしものときの予防線を張るためにこちらに残る」と言ってついてこなかったから。婆さん一人での旅だ。


夜遅くに出たフクオカ行きの便に乗って虚ろ虚ろしていると、早いもんで新幹線はフクオカまで手前に二駅しかなかった。


私はいそいそと荷物を取り出して、偶然空いていた隣の席に置いた。時間はまだ深夜二時。ここからさらに一般線を乗り継いで目的地につくのは、深夜四時頃。ここまで早くつくようにしたのも全ては対象が覚醒した瞬間、つまりまだ寝惚けている間に襲うためだ。


作戦を最終確認する。まず、最終的なゴールは対象をチャーハン屋の民家の地下に設置してある冷凍睡眠装置に入れて、サイタマ本部まで移送する事だ。


睡眠状態にある彼はどうやら自動防衛システムが働いているようで、こちらから仕掛けると手痛い反撃を受ける。しかも、目が冷めてすぐにも多少その性質は残っているようで寝起きを襲おうとした所周囲に甚大は被害が出たそうな。だから、わざわざ農村部まで移動して、こんなクソ早い時間に襲撃しないといけないらしい。しかも寝起きでも相当に強いらしく、わざわざ最高戦力三人が駆り出される事態となった。


私はもう一度ふかふかのシートに体を沈めこませる。聞けば聞くほどため息が出るような話だ。しかし必要なことだとも重々理解している。もう一眠りして英気を養おう。

________________________________________________

私「うーん」


体中が痛い。昨晩寝具を貸してもらったのだが、いつも使っているベッドとは違うためか体が軋む。私は眠気で閉じそうな目を開けて体を起き上がらせる、、、


起き上がらせられない。


店主「覚醒を確認!」

弁護士「機械を起動します!」


いきなり、店主と弁護士の怒声げ聞こえる。何だ何だ何だ何だ?朝起きたら何時の間にか体がツタンカーメンの棺みたいなところに入れられてる。どういう事だ?


何だここは。真っ暗だ。よくわからない機械がそこら中にある。


お婆さん「エネルギー波数上昇中!鎮静剤投与!」


店主はいきなり私の首を持ち上げ注射をした。分からない。なんでこんなことに?


私「ウワァァァァっっ!」


体に全力で力を込めると、拘束いとも簡単に破壊されて私は自由になった。


お婆さん「オペレーションフュージレイド!」


店主たち三人は、重火器を取り出しこちらに銃口を向けた。しかし、そんな事はどうでもいい。


私はすべてを思い出した。


私「しらす!」

私「全て思い出したぞ!」


高らかに宣言した私は、飛んできた銃弾を全てしらすに変えた。


しらす「そうだ、しらすなんだ!しらすなんだから全てが解決する!」


圧倒的な万能感だ!


そうだ、私はしらすなんだ。しらすをなめてもらっては困る!


原子力発電の廃棄物を唯一消費できるのはしらすだ!


人口問題を解決するのはしらすだ!


かにチャーハンに使うのはしらすだ!


部屋の四方からワイヤーが飛び出し、私の体を縛る。しかし、それもしらすの前では無力だ。ワイヤーはしらすになりボロボロと崩れ落ちる。


私は両手を正面に掲げる。


しらす「卵かけご飯なんて認めない!しらすご飯が世界一だ!」


その瞬間、しらすが放たれ、その圧倒的質量によって部屋は吹き飛ばされ、その上にあった家はそのまま潰倒壊した。圧倒的な量の、素晴らしい、しらす!素晴らしい!


店主「早急に本部に連絡しろ!陣頭指揮は俺が取る!その後は避難勧告を出すように進言しろ!」

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私はうっとりとしていた。山のようにもられたしらす。その天辺で私は大の字になって寝そべっていた。たかがかにチャーハン程度でなぜ万物の頂点に位置するしらすを止められると思っているんだろうか。しらすには良く分からない。


店主たちが立ち去ってから約2時間、私のしらすの周りには有刺鉄線が張り巡らされ、その周りでは武装して警備員が私を監視している。こんだけ待ったんだ。市民はそろそろ、公的機関、学校なり公民館なりに集まり終わっただろう。


私は体を起こす。その瞬間、警備員による発泡が始まる。そんな物騒な鉛玉も、私のしらすの前ではただのしらすだ。


「しらすだよみんな!しらすなんだよ!」


ありったけのしらすを、出し続け、この地域を俯瞰できる位置まで登る。あっちの方に街がある。行かなければ、しらすの布教のために。


バリケードはいとも簡単に押しつぶされ、しらすはまるで一つの生き物のように進軍を始める。一番とかくの街へ、そして次はその街へ。


行く先々で街をしらすに変えて、人々にしらすを啓蒙し、そして、その後には一面のしらすだけが残る。素晴らしい。この汚れきった国をしらすで浄化しているんだ!


「さぁ、私を啓蒙するものどもよ!雷同せよ!」

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そこは阿鼻叫喚の地獄であった。年始めからなんでこんな事になったんだ。


ある者は、あれを災害と例えた。昔見た同じような光景。たしかにあのときも地獄であったが、一つの地方が丸々潰されるなんて言うのは前代未聞だ。


ある者は、あれを神と例えた。あれほどまでに強大な力で一方的に蹂躙する。なるほど、正に神様だ。その質量は留まることを知らず、今では剣をまるごと潰せるほどの大きさまでになっている。


ある者は、あれを救いと例えた。不思議なことに、あれを救いと聞いた時に妙に納得した私がいた。しらすで覆い尽くされた都市。工業汚染などの社会問題が跋扈する、この汚れた世界よりは遥かに綺麗だ。絶望ほど美しいものはない。


ある者、と言っても少し変わっているのだが白い服に身を包んだ者たちはまるでそれが来ることを理解していたかのように暴れまわった。彼らの多く化け物と同じようにしらすを扱えるようで、その力で一方的に市民を蹂躙していった。


かくいう私も、市民ホールで休憩していた所、突撃してきた彼らに殺されかけたものの一人だ。ちょうど胸ポケットに紙とペンがはいっていたからこれを記す。市民ホールはしらすと血にまみれた異様な空間だ。


私が死ぬ前にこれを

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しらすをとどまることを知らず、ついには日本の首都である”サイタマ”についた。津波の如く、そのしらすは、あのしらすを中心とした放射線状を埋め尽くすようにその被害を広げている。


しらす一匹一匹の被害は大したことはない、問題はその質量だ。たった数分で一つの街を埋め尽くすほどのしらす。止められるわけがない。


放送の声「厳令!しらすハザードが発生しています。ただちに避難を開始してください」

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数時間前…

私は、胸に空いた穴からこぼれだす血を止めながら、呼び出したジェット機で施設まで戻ってきた。私は社長室まで通されると今の状況を伝えた。


弁護士「ハァハァ……。クソッ、無理だった」

社長「分かっている。店主と婆さん、そして君、私の4人はもう戻ってきている。2本にいるチャー5は全員集めた」

弁護士「緊急会議だ」

社長「いや、君は治療に専念しろ。カニカマの力も借りれば、何とか前線復帰できるかもしれない。病人に無理させるのは心苦しいが、君の力が必要だ」


私は無言で、会議室を出ていく。そこで待っていた職員の手を借りて私は治療室へと向かった。

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社長「店主、お婆さん、私の三人分ののマスターキーと承認があれば、最終兵器を使える」


会議で出た結論は、最終兵器以外に頼れる手段がないということを指し示した。現在東海のあたりまでしらすが侵食してきた。干渉ラインをその都度設けて、こちらの部隊を派遣して避難することで対応しているが、今までしらすがやって来たところでの死者数は甚大。救えたのはほんの少し。


加えて予想されていた最悪の事態、しらすの覚醒に伴って決起すると考えられていたしらすを崇めるカルト宗教、しらす同盟までが決起しさらに被害が広がっている。更にあいつの特性上、恐怖する市民の数に比例して力を増している。実際の所当初想定されていた力よりも遥かに甚大な力を手に入れている。


お婆さん「是非も無い」

店主「四の五言っていられる状況じゃないことは明確」


そう言って二人はマスターキーと承認カードを机においた。


職員「社長!緊急事態です!」

社長「どうした!」

職員「しらす同盟を名乗る集団がサイタマに設けたセーフティーゾーンに干渉してきて保護している市民を虐殺して回っています!」


そう言うと、弁護士と婆さんは席を立ち上がり外へと向かっていった。


私は私のなすべきこと、最終兵器の起動をしに行けということか。


秘書「行きましょう」

社長「行くぞ」

________________________________________________

そして、現在に戻る。


秘書「サイタマはあと30分で覆い尽くされます!」


タイムラインを順次秘書が伝える。タイムリミットはもう目と鼻の先、恐らくこれが最後の抵抗となる。


社長「チャー5会議で決定した事項を全職員に伝える。集音マイクを持ってきてくれ」


正直言ってこれは諸刃の剣だ。場合によってはこちら側の戦況を余計に不利にするかもしれない。しかし、それでもそこに希望があるならばと、集音マイクを手に取り私は宣言する


社長「全職員に次ぐ我社最強のドープ薬、アブナクナイ、これをカニカマチャーハンを神格化した実体に投与して完全生命体”アブナクナイカニカマ”を機動する。アブナクナイだが、市販されている人間向けのものとは一線を画す効能を誇る薬物だ!これが失敗したらもう詰みだ、諸君、全力で抗いたまえ、また各自支給される武器を用いて、しらす同盟を名乗る者たちの殺処分を私の名前で許可する。健闘を祈る!」

秘書「これを放送で流すのですね」

社長「別の職員に頼んでおいてくれ。それよりもパスワードの確認を頼んだ」


私達は本部の地下8階にある兵器格納庫ーnull”最後の砦”に向かった。自体は一刻を争う。携帯でしらすの進行度を確認する。


社長「くそ、もう本部の近くまでしらすが」

秘書「はい、、、これで完了です。後はマスターキーの挿入と、承認カードの照らし合わせのみです」

________________________________________________

最深部、最後の鍵を開け起動の準備をする。アクセスキーを入力、データバックアップ、動作状態良好。


「アクセスキーを確認、、、マスターキーの挿入をお願いします、、、」


マスターキーを三つの口に差し込み、ボタンを叩く。


「確認しました、、、承認カードを指定された位置に差し込んでください、、、」


承認カードを差し込む。


「確認しました、、、ようこそ担当者様、、、当該実体の解凍作業に移ります、、、三〇秒以内にハッチを開けて射出可能な状態にしてください」


社長「起動する!ハッチを開けろ!」


私の掛け声で、作業員たちは規律を揃えハッチの開放していく。轟音を開けながら、この地下深くから地上まで届く扉が開かれる。二〇枚を超えるハッチが開かれると、青空が見えた。


そして次の瞬間、最深部のハッチが開かれて凄まじい速度で我らの希望が飛び出していった。


あとは天命を待つのみだ。

________________________________________________

サイタマに震度5の地震が発生した。


しかし、それは希望だ。アブナクナイカニカマは、鞭のようにしなるカニカマの肢体を持つ身長250mの人形の兵器。高度に洗練された戦闘体系、緻密な動作と的確な判断能力。


そしてなんと言っても兵器としての実用性である。その豪腕に触れたすべてのしらすは希釈され、無色透明な気体へとなる。対しらす兵器の頂点に位置する存在だ。


更に極めつけとして、素体となったカニカマの神の特性として自身に対する感情の特性やエネルギーを読み取り、自身を強化する。


「皆さん、これが私達最後の砦です。皆さんの応援があれば、アブナクナイカニカマは必ず敵を討ち滅ぼすでしょう」


至るところにあるサイレンから明るい女性の音声によってアブナクナイカニカマを称える声をながす。市民は最後の希望に思いを寄せる。


流線型の体をなびかせて飛んでいくアブナクナイカニカマ、その姿に一般市民は感涙の声を上げる。その声の大きさに比例して、アブナクナイカニカマはその大きさと、速度を上昇させる。


しらすは既にサイタマの近くの県を食いつぶしていた。そして、ついにサイタマへと到着しようとしたその時、目の前にアブナクナイカニカマが躍り出た。


アブナクナイカニカマは手を交差させる。そして、交差させた手が重なっているところからしらすの山に対し光線をはなつ。その光線が、焼いた部分は気体となり消滅した。しらすの山が大きく形を崩す。


しらすの頂点からこちらを見下ろしていた少年は人の体から到底出るとは思えないような巨大な声を上げた。あの小さな体からここまで聞こえるとは、それほどに大きい声なのだ?


しらす「君たちは私はをわかっていないようだなあ!私はしらすの王!つまり万物の王だ!」


しらすの波がアブナクナイカニカマを覆い尽くす。しかし、カニカマは負けていない。それが例えカニの偽物だとしても、そこには様々な魚のちからが宿っているのだ!アブナクナイカニカマを包み込んだしらすは一瞬にして気体へと昇華される。


しらす「生意気だぞ!しらすでもないくせに!」


「そうだ、しらすに誇りを持て!最強の食材と言えば皆が口を揃えてしらすというだろう!」


「しらすが負けてどうする!しらすしらすしらすしらす!しらすの栄光を、もう一度日本国へ!」


「うらぁぁぁぁぁあ!」


ものすごい剣幕で妄言を吐いたかと思えば、一転、更に勢いをつけてアブナクナイカニカマに突撃する。しらすの勢いはなおも止まらず、より一層激化していく。アブナクナイカニカマはたしかな速度でしらすを希釈していくが、それすらも押し負けそうになるほどの圧倒的な勢いだ。


しらす「くらえぇぇぇぇ!」


しらすの一撃がアブナクナイカニカマを襲う。硬質になったしらすは、一本の剣のようになりアブナクナイカニカマの腹部を貫く。流石に断続的に能力を使い続けるのは厳しいか。


まずい!アブナクナイカニカマが失速している!しらすは勢いは今なお止まらない。しかし、空中で一旦距離を取るように移動したアブナクナイカニカマは再度体制を整えて攻撃しようとする。


しらす「なんだなんだなんだ、なんなんだよぉぉぉぉ!」


しらすは再度剣のようなものを作り出す。それも10本同時にだ。しらすは、なお戦意を失わず飛びかかる剣を一本一本、芸術的とも言える体術で粉砕していく。


しかし、アブナクナイカニカマは随分と疲労が溜まっていたようで、すきを突かれて、腹部にもう一度刺されてしまった。先程は浅かったが今回は根本までズッポリと刺さってしまった。


クソッ、打つ手はないのか。今はまだ動いてくれているがいつ落下するかわからない。


私は手元のマニュアルと、制御装置を漁った。何か、手段を。


手元のページに、アブナクナイカニカマの組成が書いてあった。「カニカマを神格化したものを土台にしている。所以に、カニカマと同じような性質を持つのであれば、依代として利用できる可能性あり」


私は、覚悟を決めた。


社長「秘書!カニカマに以下のコマンドを送れ!その後は退避しろ!」

秘書「了解しました!」


私は秘書に、手元にあるマニュアルの1ページと私がメモをしたものを渡す。私のメモを含めたコマンドを送れば、なんとかなるはず。コマンドを送った秘書はどこかへと退避した。


カニカマは、急停止し私のところへと急降下してくる。そして、私の体をつまみ上げてひょいと口に入れた。普通ならばこれは死である。しかし、そうじゃない。


私はアブナクナイカニカマの心臓となった、脳となった。カニカマの破れた体が段々と修復されていく。私の体はアブナクナイカニカマの一部、いや、半身となった。私の意思で動かせる。


依代が増えた分、より屈強に、より俊敏に、より靭やかに、より巨大にあらゆる点で先程のアブナクナイカニカマを凌駕する最強のボディだ。


社長「カニカマとは、しらすを止める最後の術だ」


私は、大幅に上がった脚力で地面を蹴り飛ばす。私の体はその反動で空高く舞い上がる。凄まじい勢いで上昇し、しらすの塊に一撃入れる。その瞬間しらすは爆発四散した。


身体は偽造食品で出来ている



血潮は油で心は胡椒



幾度の警察の捜査を超えてセコい食材を用い



ただの一度も本物のカニは使わず



ただの一度も反省しない



彼の者は常に独り、店長の厨房で調理に酔う



故に、その料理に本物のカニはなく



その心はきっとカニカマチャーハンで出来ていた



社長「しらす、最後の決戦だ」



しらす「ウゴァァァァァ」

しらす「ゆるさん、ゆるさん!カニカマごときが!」


しらすの不安定な肉体はその怒りと嫉妬によって強靭なものへと変化した。悍ましい程の醜さだ。苦痛に歪んだ顔面、関節の位置と数が明らかに不正確な6本の腕。地面から大きくそびえるように生えた上半身。顔の部分の額にはしらすの王が生えている。先程までの不定形なしらすとは一線を画す強度だ。それに私よりも圧倒的に大きい。


しかし、不思議と私はこいつを倒せる気がした。


社長「さあ、はじめよう、しらす!」


カニカマが右腕から顕れる。そして、それはみるみるうちに手に巻き付き、大拳のようになった。


しらす「だからなんだというのだァァ!」


しらすのそれぞれの手から、大量のしらすが顕われる。しらすは六本の腕からそれぞれ棒のようになったしらすを作り、更にそれが別の腕のしらすとくっつくことで、二振りの槍のようになった。


しらす「くたばりやがれ」


しらすはそれを両手に握りしめ、こちらへと降った。力任せに振り回した。私はそれをひたすらに避ける。一振り一振りが凄まじい風圧で、何度も吹き飛びそうになったが、懸命に耐える。


そして、槍の合間を縫うようにしてしらすの王のもとへと駆け寄る。


社長「これがカニカマの力だ」

しらす「クソがァァァっァァァっ!」


しらすの王を思い切り殴打する。その瞬間、しらすの王の体に亀裂が入り、場結光が放たれた。その光を直近で浴びた私の体は気体へと化した。しかし、相打ちでも十分だ。地上には、私の頼れる仲間がいる。


次の世代へと私は松明を託せた。

________________________________________________

婆さんと弁護士と店主、この3人はひたすら襲撃してくるしらす同盟と戦い続けていた。病み上がりで本調子の出ない弁護士も、死力を尽くして戦っていた。


そしてその戦いはついに終りを迎えた。


弁護士「婆さん!店長!しらすがついに崩れたぞ!」


空高く聳え立っていたしらすは、まばゆい光を放ち崩れ去っている。ついに、倒せたのだ。


店長「やったぞ!あっちは成功した!」

お婆さん「もう一息じゃ。気張るぞ!」

________________________________________________

しらすによる大量破壊からすぐの2049年1月11日、あれから全てが変わってしまった。

アハ社の円周上にあるセーフティーゾーンを除いたあらゆる人工物はしらすにより食い荒らされてまさに世紀末の様相、対外への交流を断ち切ったネオ日本国にとってこの状況は絶望的であった。

だが、全てが絶望的なわけではなかったのだ。


鍬を持った筋肉モリモリの弁護士がひたすらに地面を耕している。しらすによって汚染されきってしまったこの大地にも、まだ生命が実る可能性がある。その一縷の希望にかけて懸命に努力し続ける男たちだ。


農業担当「弁護士さん!ついに、米が実ったと報告がありました!」

弁護士「よし、他の食物にも安定した生産が可能になるようにもっと邁進しよう!」

農業担当「はい!」


その努力はついに実り、初めて”シラス大地”での作物の生産に成功した。

このままの勢いで復興を進めていこう。


婆さん「できたらしいじゃないか」


遠くから婆さんがのこのこと歩いてくる。チャー5で残ったのは私、弁護士と婆さんの二人、今は復興の柱として活躍していてくれている。犠牲となったチャー5たちの思いをついで、臣民の一人ひとりがたゆまぬ努力を続けている。


弁護士「婆さん!」

婆さん「次はビルを建てに行くよ!」

チャー5の皆々はこれからも街も復興していくのだろう。


しらすと救世主の戦いで彼らは命を落とし、この世界を1日にして大きく変化させた。

そして、その意志は次の世代の者たちに引き継がれてゆくのだった。


未来は明るい。

________________________________________________

「うーん」


困ってしまった。


平和な世界を選択し、転移するはずの異世界ゲート。それがどうやら誤作動を起こしてしまったらしい。


今までに見たことのないような荒廃した世界だ、地面一面がしらすとか何があったらこんな世界になるんだよ。


「て、あぁっ!クソッ」


しかも異世界ゲートすらもどうやら故障してしまったようだ。


まぁ、基本的に似たりよったりな世界にしか繋がらないはずだから何とかなるだろう。


取り敢えず人口密集地を探すとするか、

to be continued


いかがだったでしょうか?本作と「チャーハン屋ハイヌウェレ」はチャーハンシリーズの前日譚となっております。


これ以降はこの世界での生活を主題とした作品をオムニバス形式で投稿していく予定となっています。


最後まで長々とお付き合いいただきありがとうございました!続編もよろしくお願いいたします!

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[良い点] 面白い。 サイタマがしらすで埋もれてしまう... [気になる点] スマホで見ると、アスキーアートが崩れる。 [一言] これからも頑張ってください。
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