第9話 もう一人の幼馴染の思い
彼、真守君との出会いは4月に進級してすぐの図書館だった。
本を読んで感想文を書く2時間の授業だ。
面白そうな本は既に借りられていて本棚には空きが目立ち、難しそうな本しか残っていない。
道徳の授業で訪れた図書館で、真守君が声を掛けてきた。
「きみ、詩織ちゃんだよね?」
学級委員の真守君だ。
読みたい本が見つからずに本棚の前をうろうろしている私を心配してくれたみたい。
「読みたい本が見つからない?」
「うん、図書館にはどれも難しそうな本しかないのよね」
「じゃあ、これがおすすめかな」
真守君の手の平には一冊の文庫本が乗っていた。
伊達ナニワ 著
太陽と豆電球
初めて見る作家の本だった。
「この本に載ってる話はね、ショートショートの童話の短編集でどの話も簡単で10分もしないで読めるからおすすめだよ」
10分で読めるなら、今から読んでも十分感想文を書ける時間が取れる。
なかなか本を選べない私にすぐに読める話を選んでくれたんだろうな。
やさしいな。
私を気遣ってくれる真守君に惹かれ始めている私がいた。
「表題作の『太陽と豆電球』っていう話は太陽に恋した豆電球が、形は似ているけど明るさは全然違う。太陽の前では豆電球の存在は無意味と悩んでいたんだけど、ヒマワリに励まされて夜でも照らすことのできる自分の良さに自信を持ったら、どんどんと輝き始めて太陽に負けない光を放つようになったという話なんだ」
へー。
面白そうな話ね。
真守君におすすめされた話を読んでみると、そのショートショートの童話の中には短いのにちゃんとした世界が出来ていてものすごく驚いたのを覚えている。
感想文も上手く書けて、それから真守君と図書館でお勧めの本をお互いに紹介しあう仲となった。
とっても幸せな時間だった。
私は真守君のことを彼氏みたいに思ってたんだけど、勉強のできる真守君にとって私はクラスメイトの単なる一人。
私と真守君では恋人として釣り合わない。
私の秘めたる願いを優秀な真守君に告白することは、結局クラス替えで別れて出来なかった。
私の中で擦り切れるほど読み返した『太陽と豆電球』の表紙に涙のシミを作る。
結局真守君は太陽で、私は豆電球なんだな。
そんな時、クラスで発表した私の読書感想が脳裏に浮かんだ。
『電球は明るさでは負けていたけど、太陽には出来ない夜にも輝けるという特技を伸ばし、夜には太陽にも負けない明るさを得たという話です。自分の得意とする分野で努力すればきっと報われるという話でした』
そう、私は真守君に勉強では勝てない。
でも、勉強以外のことなら真守君にも勝てるチャンスがある。
そして真守君に認めてもらうんだ。
私はそれから小説を書きまくった。
書いて書いて書き続けた。
最初は作文レベルだった話は、友だちにも面白いと言ってもらえるようになる。
後は、この話を本にするだけ。
私は自信作を文学賞に応募するけど、選考にかすりもしなかった。
カテゴリーを変えてラノベの賞にも応募するけど、全然ダメ。
結局、高校卒業まで一度も文学賞の選考を通過することは無かった。
私はただの豆電球で、太陽のように輝くことは出来ない。
結局、私は真守君に釣り合う女ではなかった。
そうあきらめたその時……。
『小説家になろう』というサイトを見つけた。
自分の面白いと思う話を投稿出来るサイトだ。
私は書いた作品を投稿する。
選考と違い、私と同じ感性を持っている人が読んでくれて評価もしてくれる。
そして大学生となった私は人気作家となり多くの本を出版することが出来た。
そう、この初めて書籍化したこの本から新しい私が始まった。
やっと、真守君と釣り合う女になれたよ。
文学賞受賞作家という太陽のように強く輝ける作家ではないけど、夜を十分に照らせる存在になれたよ。
堂々と真守君に告白出来る存在に。
私が手にした、初めて書籍化をした本の表紙に嬉し涙のシミを作った。