第5話 幼馴染の両親への挨拶
朝というか、昼近くまで一緒に寝ていた僕らは美也へのメッセの音で目を覚ます。
「お母さんが帰って来たみたい」
どうやら実家に戻っていた美也の両親が予定を繰り上げて帰って来たみたいだ。
どこの家もうちの実家と同じような感じらしい。
しばらくお母さんとメッセの交換をする美也。
5分ぐらいメッセのやり取りをした美也は僕に頼みごとがあるみたいだ。
「まーくん、お願いがあるんだけどいいかな?」
なんだろ?
お願いって。
「さっきメッセでね、まーくんの家に泊まったことを伝えたらね、根掘り葉掘り聞かれたからまーくんとよりを戻したことを伝えたんだ」
両親としては幼馴染といえど、男の家に泊まるのは心配だよな。
「でね、うちの両親に付き合い始めたことを話して欲しいんだ。やっぱり私からじゃ言いにくいし」
「美也の家ってそういうのに厳しい家なの?」
「いや、そんなことは無いけど照れるじゃん」
まあ、そうだよな。
うちの両親には美也が交際宣言をしてくれたけど、僕が言うことになったらかなり緊張しただろうな。
今度は僕が言う番だ。
「まかせて!」
「ありがとう。まーくんならそう言ってくれると思ったよ」
僕が挨拶に行くと美也のお母さんにメッセを入れた。
美也の家まで行くと、家の中から大声が聞こえる。
「マジで、ミヤ姉が男と付き合い始めたの?」
「そうらしいのよ。あの子が男の子と付き合うなんてビックリよね」
「ミヤ姉に彼氏が出来たなんて信じられないよ」
美也の家族からの扱いも僕とあんまり変わらず酷いもんだ。
美也は頬をポリポリ掻いて照れ笑いをしている。
「落ち着きのない家族でごめんね」
これから美也の家族に交際宣言をすることになってるけど、僕の両親と似た雰囲気でホッとする。
家の中から美也の弟の智也君の大声が聞こえる。
ちょっとやんちゃの入った感じで、普段はでっかいバイクを乗り回しているのを何度か見たことがある。
それに陰キャの僕なんかと違い、声がとてもデカい。
「ミヤ姉と付き合う勇者はどこの誰なんだ?」
「それがね、近所のマー君らしいのよ」
「あの真面目のマー君なのか? ミヤ姉と全然つり合い取れてないけど大丈夫なのかよ? 遊びで捨てられたりしない?」
「そうね……マー君ならそんなことはしないと思うけどちょっと心配ね」
昨日、美也と添い寝をした時に聞いたのと同じ心配をしているみたいだ。
それを聞いた美也はうつむき不安な表情をしている。
僕は安心させるようにギュッと抱きしめて耳元で囁いた。
「絶対に美也を捨てたりしないから安心して」
「まーくん!」
美也も僕にヒシっと抱き着いてきた。
もう美也は少しも不安な表情を見せていない。
さっきまで僕は美也の両親に交際を始めたことを伝えるのが少し不安だったけど、今は微塵もそんな気持ちは起きない。
僕は美也の玄関のドアを開けると、堂々と宣言する。
「美也さんを僕にください! きっと幸せにしてみせます!」
あまりに僕が大きな声を出したので美也の家族は完全に僕の気迫に飲み込まれていた。
「「「是非ともよろしくお願いします!」」」
玄関に正座してそういった美也のお父さんの雅也さんとお母さん智美さん。
弟の智也君まで正座していたので、僕も玄関の土間に正座する。
つられて美也まで正座して、両親への交際の挨拶としてはとても変な絵づらになってしまった。
「さささ」とお母さんに言われて居間に案内される僕と美也。
ソファーに着くと美也のお父さんが僕に話しかけてきた。
元ヤンぽい雰囲気がこの歳になっても滲み出ているのでちょっと厳つい。
「真守君、久しぶりだな」
「ご無沙汰しております」
「うちの娘なんだけど、なんというか男が全く近寄って来なくて、もう結婚できないんじゃないかと諦めてたんだ。ほんとうにありがとう」
お父さんが僕の手をぎゅっと両手で握りしめてぶんぶんと振り回し感謝の意を表す。
彼氏が出来たことがよっぽど嬉しかったみたいだ。
お母さんも嬉しかったらしく、美也の肩を抱いている。
お母さんに肩を寄せて目を細めた美也がとってもかわいい。
「早速ですまないが、真守君にお願いがあるんだが……」
「なんでしょう」
「うちの美也と一緒に成人式に行ってくれないか? 美也が行きたくないと駄々を捏ねていてね」
「一生の思い出になるから行きなさいって言ってるのに全然聞いてくれないのよ」
お母さんが心配する声を上げると、美也が言い訳する。
「だって、成人式って小中学校時代のクラスメイトに彼氏を紹介するようなイベントだし……」
「もう、彼氏さんが出来たんだからそれは理由にならないわよ」
「そうだけど……」
美也は何か気がかりがあるようだったけど、僕がその不安を吹き飛ばす。
「お任せください。その役目僕が必ず果たして見せます!」
「真守君、ありがとう。娘をよろしくな」
お母さんが何かを思い出したのかパッと立ち上がった。
なんとなく、美也と仕草が似ている。
「せっかくの成人式なんだから、振袖を着ていきなさいよ。お母さんの振袖をあげるわ」
美也はお母さんに連れられて二階に消えていった。
それと入れ替わりに智也君が僕を睨みつけるように鋭い視線を投げかけてきた。
「マー兄、ミヤ姉のどこが気に入ったの? 処女だから?」
ぶほっ!
処女?
いきなりとんでもないことを言うから、紅茶を吹いたじゃないか!
智也君は僕のすぐそば迄顔を寄せる。
俗にいう、メンチを切るってやつだ。
「ミヤ姉の処女を奪っておいて、やり捨てたらタダじゃ済ませねーからな!」
「まだ、僕はそんなことしてないし」
「でも、昨日一緒に泊まったんだよな? 一緒に寝たそうじゃないか」
「本当に一緒に添い寝しただけで、そういうのは一切してないし」
「なんにもしていないのに結婚するとか言い出してるのか? ありえねーだろ」
まあ、そう思われても仕方ない。
この歳の男女なら、仲が良くなれば肉体関係を持つのも当然の成り行きだ。
でも、僕はそんなことを超えた次元で美也に惹かれているんだ。
僕は智也君の目を見ながら美也への思いを語った。
「美也と一緒に居るだけで癒されるというかホッとするというか癒されるから……。本当にエッチはまだしてないし、エッチするのが結婚したい理由じゃないんです」
僕の目をしばらく見つめ続けていた智也君は肩の力を抜いた。
「わかった、その目は嘘を言ってる目じゃないからマー兄を信じるよ」
「ありがとう」
トタトタと階段を降りてくる音がした。
振袖を着ているので歩きにくいのか、かなり遅めの歩き方だ。
部屋に入って来た美也は赤い振袖を着てとても綺麗だった。
お母さんが自慢げに娘の着物姿を披露する。
「私の着ていた振袖を軽く合わせてみたんだけど、マー君どう思う」
「お姫様のようでとっても綺麗です」
「まーくん!」
感極まった美也は僕に駆け寄ってくると、振袖の裾を踏んで思いっきりずっこけた。
転げながらも慌てて抱き受ける僕。
僕が下敷きになったけど、ギリギリ間に合った。
「えへへ。せっかくの振袖来たのにコケちゃってかっこ悪いよね」
「美也らしくてかわいい」
「ありがとう。まーくんならそう言ってくれると思ったよ」
そして、感極まった美也はご両親の前にもかかわらず僕に抱きつきながらキスをするのだった。