第2話 幼馴染と初めての……
美也は何かを思いついたのかぴょこんと起き上がった。
「ねー、まーくん。私たちって恋人になったんだよね?」
遠い過去に結婚を約束した幼馴染。
恋人を一気に飛び越えて婚約者になってる気もするけど。
「そうだな」
「じゃあ、あれしよっか。恋人同士がする初めてのアレ」
アレって、恋人同士がよくする夜の大運動会的なあれのことなのか?
キスは済ませたものの、ブランク10年でよりを戻して1時間ちょっとしか経ってないわけで、ちょっと早すぎるというか心の準備が出来ない。
僕はどうしていいのかわからず、どぎまぎして目を泳がせまくる。
「まーくん、もしかして私とするのが初めてじゃいや?」
「そ、そんなことはないから。むしろ光栄だから!」
「やったー。まーくんならそう言ってくれると思ったよ。外は寒いからしっかり着こんでね」
「そ、外でやるの?」
「家の中でする人なんていないと思うよ」
いや、そういうことをした経験がないからよくわからないんだけど、こんな寒空でも外に出てするものなの?
確かに家でしたら声が漏れてご近所さんに恥ずかしいかもしれないけど、冬に外じゃ寒いよな?
夜の公園でするって話を聞いたことがあるけど、恋愛経験値が低すぎてどこでどうやるのかわからない。
それ以前に美也はパジャマなんだけど大丈夫なのかよ?
「でも、パジャマじゃ外に行けないよね」
「それなら安心して。もう乾燥も終わってるはずだし」
美也はホカホカに乾いた服に着替えてきた。
勝手に人の家の洗濯機を使って服を洗っていたらしい。
しかも乾燥モードまで使って。
勝手に人の家の家の洗濯機を使うなよ……。
遠慮しないとこは美也らしいって言えば美也らしいんだけど。
「もう、キスも済ませたし、他人じゃない仲なんだからいいじゃない。それに結婚したらこの家に住むんだから今から色々と慣れておかないとね」
僕の家に同居する気満々であった。
美也は服を着替えると、僕の手を引き外に連れ出す。
「まーくんとの初めてのイベントは楽しみだなー」
満面の笑みの美也を見ているとものすごく和むんだけど、この方向って公園じゃないよな?
どこに向かってるんだ?
さすがに屋外じゃ寒すぎるから、噂に聞く大人のホテルなんだろうか?
うーん、わからない。
「公園は方向違くない?」
「なんでこんな夜中に公園行くのよ」
「いや、でも、あれしに行くんでしょ?」
「そうだよ。道は間違えてないから安心して」
ということでついたのは神社でした。
「人いっぱいだね」
「うん」
「さー、いそごー」
美也が何をしたいのか、僕はこの時点で悟ったよ。
僕はいままで一体何と勘違いしてたんだ?
情けなさと馬鹿さ加減にどこかの電柱に頭を打ち付けたくなる。
美也は神社の初詣に来たのだった。
「恋人の新年初めてのイベントと言ったら初詣しかないよね」
「お、おう」
思いっきり勘違いしてた。
ごめん。
15分ほど並んで僕らの番が回ってきた。
僕と美也は二人して並んでお祈りをする。
美也がぶつぶつと言いながらお祈りをするのが聞こえる。
「どうかまーくんと二度と喧嘩しませんように。どうか一生まーくんと仲良くいられますように。どうか……」
ぶつぶつと小声で言ってるのに鬼気迫る威圧感があって怖い。
僕も美也と同じことをお祈りした。
お祈りを済ませた美也は僕の顔を覗き込んできた。
「まーくん、どんなお祈りしたの?」
「いや、まあ……」
神様には美也とずっと一緒に居られるようにお願いしたものの、それを美也に面と向かって言うのは恥ずかしい。
美也は目を輝かせながらお祈りの内容を僕に教える。
「私はね、まーくんと結婚出来ますようにとお願いしたよ。まーくんのお願いも教えてよ」
「初詣のお願いを教えちゃうと夢が叶わないっていうぞ」
たぶんそんな設定があったはず。
確信は持てないけどたぶん間違えてない。
美也はそれを聞いたとたんに顔面から血の気が失せた。
「まじ?」
慌ててもう一度お参りをしようとする美也。
でも、初詣はもう終わっているので、これからもう一度お参りをしても初詣にはならないぞ。
おまけに参拝客がさっきよりも増えてて30分待ちぐらいの行列になっていた。
さすがにもう一度行列に並び直す気にはなれない。
僕は行列に並びなおそうとする美也を必死で止めた。
「僕も同じことを願ったから、僕の方の願いがかなうはずだからもう一度お参りをする必要はないよ」
「そっかー。まーくんならそう願ってくれると思ってたよ」
僕の願いが美也と同じことだったが嬉しかったのか、美也は家まで僕の腕にぎゅっと抱きついたままだった。
僕を好いてくれる人がいるっていうのもいいもんだね。
幼稚園に入る前の楽しかった日々を思い出す。
あの頃は美也が唯一の友だちで、美也が唯一の社会への接点だった。
美也といるだけで心がものすごく落ち着く。
美也との初詣は凄く楽しかった。
昨日までの心の物足りなさが急速に埋められているのを感じる。
僕に足りなかったのは癒しであり、美也だったんだ。
美也とよりを戻せて本当に良かった。