第11話 真実の美也
突然、猛スピードでかけだした美也。
僕は美也を追いかける。
美也は死に物狂いのように走っていて、何度もコケそうになるけど全然追いつけなかった。
そして市民ホールの出口を出た途端、速度を出していたウーマーイーツの自転車とぶつかり倒れ込む。
「美也! 大丈夫か! 美也!」
声を掛けても返事は返ってこない。
転んだ拍子に頭を打ったのかもしれない。
配達員は倒れた自転車の横に座り込み美也を見つめ「俺が悪いんじゃない、悪いんじゃない」と怯えていた。
結局美也は救急車で病院に運ばれ、検査の結果軽い脳震盪との診断で、入院となった。
美也の家族に連絡を入れると、すぐに美也のお父さんとお母さんと智也君がやって来た。
「美也の様子はどうだい?」
「まだ、意識は取り戻してないのですが、命の別条はないようです」
ほっと息をつくお母さん。
雅也さんは僕を見て頭を下げる。
「実は話しておきたいことがあるんだ。ちょっといいかな?」
お父さんの雅也さんは休憩室で美也に関して話したいことがあるという。
「親父はミヤ姉についてやっててくれよ」
智也君が代わりに俺に話をすることになった。
*
休憩室にやってくると智也君が頭を下げた。
目には涙を浮かべている。
「すまない。もっと早くミヤ姉のことを話しておくべきだった」
ものすごい真剣な表情で少し怖い。
いったいなんなんだ?
「実はミヤ姉……ここ10年ずっと引きこもってたんだ」
はあ?
いったい何をいってるんだろう?
「いや、だって、この前、一緒に通学したよ?」
「小学校からずっと引きこもってるんだよ」
どういうことなんだ?
智也君が言うには短大どころか中学にも通ってなかったらしい。
「じゃあ、僕と一緒に短大に通学したのは……」
「あれはミヤ姉の嘘だ」
信じられなかった。
智也君が言うには、美也は小学校3年の時、僕が新しい彼女と付き合ってるのを知って、当てつけのように新しい彼氏を作ったそうだ。
僕とは違い自信満々な新しい彼氏に心底惚れていたらしい。
だけど、夏休みを終えたころ突然別れを切り出された。
『新しい彼女が出来たんだ』
相手はクラスで一番かわいい女の子だった。
『ごめん、美也。僕は君みたいな乱暴な子じゃなく、もっとおしとやかな女の子と付き合いたいんだ』
それを聞いた美也は壊れた。
感情が抜け落ちて、ただブツブツと呟くだけ。
『まーくんならそんなことを言わない……。まーくんならそんなことを言わない……』
結局、それから美也はずっと引きこもりっぱなしで一度も学校に通ったことは無い。
当然、僕の両親にも連絡を入れたんだけど、さすがに小学生だった僕に壊れた美也を見せるのはマズいということでこのことはひた隠しにされた。
「短大に通っているって言うのは噓だったのかよ?」
「ああ、すまない」
僕と一緒に登校した日の帰りのデート。
ずっと外で待っていたのか、あの時の美也の手は冷たかった。
気が付こうとすれば気が付けたはず。
それに気が付けなかった僕はなんておろかだったんだろう。
「マー兄にはもう少し早くミヤ姉のことを話すべきだったんだけど、あまりにも楽しそうにしていたミヤ姉を見ていたら、このことをマー兄に教えて破局になる可能性を考えると言うに言えなかったんだ」
そうだったのか……。
知ってたら、岡山の話なんて受けなかったのに。
「お願いだ。どんなことがあってもミヤ姉を捨てないでくれ!」
「美也を捨てるわけがないだろ!」
僕らは病室に戻った。
ちょうど美也が意識を取り戻したところだった。
でも、その目は濁っていて顔からも感情が抜け落ちていた。
今までの美也とは全く違った。
でも、僕は構わず美也を抱きしめる。
「美也、大丈夫か? 僕は美也を失いたくない! お前が好きなんだ!」
「まーくん」
僕の思いが届いたのか、美也の顔に表情が戻ってきた。
僕はホッとして抱きしめる力を緩めると、美也が逆にぎゅっと抱きしめ返してきた。
「まーくんならそう言ってくれると思ったよ!」
いつもの美也だ。
美也が僕を抱きしめてくる力が愛おしくてならない。
僕にとって美也は僕の一部であり、もう失うことは絶対にありえない。
僕は美也との幸せな時をずっと一緒に過ごすと決めた。
こうして僕の幼馴染の話はここで終わり、ここからは僕の恋人、いや嫁となる美也の話が始まった。




