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人違い

 ロベールは息を弾ませて部屋に飛び込んで来るなり、上着をソファーに脱ぎ捨てた。


「マルセル!お前大丈夫なのか?」


 ソファーに座って本を読んでいたマルセルは何を聞かれているのか分からずに困惑して視線を上げた。


「どうした?飛び込んで来ていきなり。」

「父上から話を聞いて飛んできたんだ。お前最近教会に行ってただろ?」

「教会に?あぁ、墓に何度か…。」


 ロベールはマルセルに続きを促すかのような視線を送りながら向かいに腰掛けた。


「……墓参りが…何か?」

「教会の周りでお前顔を見られなかったか?…今朝…何人かを騎士団が捕まえたよ。」


 マルセルは本を閉じると腕を組んでロベールに向き直った。


「情報を小出しにせず言いたい事があるならはっきり言えよ。それだけでは何の事だかさっぱり分からない!」


 ロベールはポリポリと頬をかくとマルセルから視線を逸らしながら呟いた。


「昨日教会に来ていた少年が男たちに路地裏に連れ込まれて襲われたんだよ。今朝捕まった奴らが言うには女だと思ったんだと。だから、てっきり俺はお前の事だとばかり…。」

「少年を女だと思った?」

「その……抵抗されて服が乱れた時になって……やっと男だと気付いたらしいんだ……。」

「その少年は?」

「……隙をついてどうにか逃げ出したらしいけど。」


 マルセルは嫌な予感がした。教会にいた自分ではない女のように見える少年…。


「ロベールは……ポールの息子を知っているか?」

「ポール?いつもここにいるあの騎士?」

「ポールには私たちと同い年の息子がいる──ジャンと言うのだが、以前教会で会った事がある。」

「あぁ、ポールの息子なら違うだろう。襲われた少年は白っぽい色の髪をした色白の子だったらしいから。」

「──ジャンはポールのような黒髪ではなくて薄茶色の髪をしていた。色が白くて……とても美しい…。」


 マルセルの言葉にロベールは口を開けたまま呆然とした。


「お前の口からそんな言葉が出てくるなんて……。」

「捕まった奴らは他にも何か言っていなかったか?」

「いや……とりあえず最初にその話を聞いて慌てて飛んできただけだからそれ以外は何も…。」


 男達によって路地裏に連れ込まれた少女がどんな仕打ちを受けるのかはマルセルにもだいたいの想像がついた。しかし少女だと思っていた相手が少年だと気付いたならば……。


「ポールは今日は屋敷に来ていないはずだ。」

「……」

「私が屋敷から出る訳にはいかないから、お前がポールの家を訪ねて様子を見てきてくれないか?」


 ロベールは無言で頷きながら立ち上がると上着を手に取った。


「とにかく…マルセルが無事なら良かった。当分は屋敷から外に出るなよ?墓参りも駄目だ。騎士を後何人かここによこすように父上が手配してるはずだから。」

「……分かっている。ジャンの事、何か分かったら直ぐに知らせて欲しい。」

「あぁ。とりあえず行ってみるよ。また後で寄る。」

「頼んだ。」


 マルセルはソファーに座ったままロベールを見送ると、組んでいた手を解いた。


 ジャンと教会の墓地で会ったのは母親が亡くなった翌日のただ一回だけだった。それだってポールがマリエの墓に参るのについて来ただけのはずだ。身内の墓があの墓地にあるのでもない限り、ジャンには教会に行く理由がない。

 何かの間違いであって欲しい……マルセルは祈る様にそう思った。だが少女に間違われるような少年がそう都合よく何人も現れるとも思えなかった。

 マルセルは墓に行く時は護衛を数人付け、外套でなるべく顔を隠し周りに見られないように気を配っていたつもりだった。

 それに引き換え、ジャンは姿を隠す必要などないのだから襲う方からしてみれば無防備な標的に見えたに違いない。

 大人数人に取り囲まれて助けを求めるジャンの姿が一瞬頭を過ぎり、それを振り払うように大きく頭を振ると髪を掻きむしった。


──どうしてこんなことに……。せめて無事に逃げ出していてくれ。

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