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15-2

「な……」


 なんて強引な奴!



 さすがにこういう行動をとってくるとは思わなかった。確かにチサトがいないと今後の追求ができない。橋野はこのまま終わらせて逃げ切るつもりなのか。


 そうは行くか!!


「ではこちらはいかがですか。とある女性社員に相当貢いでもらってますよね」


「なんです、それ」


「なによ、それ!!」


 川下がいきなりキレて演台の方に駆け上がってきた。ただ悪口を吹聴されていただけでなく、付き合っていたのか。

 ただ、もしかしたら川下からの一方通行という可能性もなきにしもあらず。


「……そんな事実はありません!」

 橋野は否定するが、焦りの色が見える。


「あなた、私の他に女が居るってこと!?」

 川下が橋野の胸ぐらを掴んで迫ってきた。


「ちょ、今はすこし黙っててくれないか」

 言い募る川下をなだめようとしているのか、彼女の肩をポンポンたたきながら、優しくはなしかける。


「黙れってなによ! いるの、いないの!?」


「ええっと、会社から、その女性の口座に出金させて、その後社内SNSで送金したことを連絡してもらっていますよね?」


 などとすこーし、燃料を供給してみる。


「居るんじゃない! 誰よその女!!」


 私の説明を聞いた川下は金切り声をあげ、派手に燃えだした。


「ちょ、うるさい黙ってろって。……の、野路くん。そんなデータ、そもそもどこにあるっていうんだ? いま出してみろよ! ほら!!」


 オマエがさっきパソコンぶっ壊しただろうが!


「出せないなら今日は仕切り直しだ、それでいいよな、な!」


 ああくそ。もうすこしなのに、どうしたら……。



「なんでしたら、私のパソコンで続けます?」



 会場じゅうの視線が一点に集中した。


「あれ? 私、なんかやっちゃいました?」

 須貝が頭をかきながらヘラっと笑った。


「いえ、いえいえ! それです、ありがとうございます!」

 思わず両手を掴んで握手した。


 その後須貝からひったくるように借りたパソコンを見ると、チサトがコンバットスーツに身を包み、ナイフを構えていた。


「いつでもこいやぁ!」


 などと叫びつつ、素振りをしている。


「私のパソコンなので、今度は投げて壊さないでくださいね~」



 しばらくうるさいままの橋野だったが、まもなく提示した出金記録とSNSの会話記録を見せると諦めたのか、ようやくおとなしくなった。


「……くそ、なんで足がつく真似をするんだ。これだから女って奴は……」


「はぁあ!? そこ女関係無くね?」

 ガクリと頭を垂れる橋野に、川下が追い打ちをかける。


 その言葉が頭にきたのか、再び彼は元気になった。


「オマエなんでわざわざメモなんか取ってんだよ、しかもアイツらに見えるところにデータ置きっぱなしにしやがって! バカなの? バカだろ!? このバカ!!」


「誰がバカよ!? 大体あんただってねぇ」


「あ、あのう」

 私を間に挟んで非難轟々、二人は互いに罵り始めた。迷惑なので他所でやってほしい。


「あの!」

「あんだよ!?」


 ようやく止まった。


「アナタの場合、損害額が大きすぎて、ここで暴露したら逃走する可能性が高かったので」


「な、なんだよ」


「もう警察に相談済みです。で、あちらにもうお見えなので」


「へっ?」


「諦めて、罪を認めてください」


 右手を軽く上げると、会場の背後にいた警官が数名、動き出すのが見えた。


「ちっくしょう……ふざけんなよ、女の分際でこのクソアマ……オマエのせいで、ぜんぶ台無しじゃねえかあぁあ! オマエがあああ!!」


 橋野がなにやら手に持って振りかぶるのが見えた。


「あぶない! みーちゃん!!」


 突き飛ばされる衝撃。背後で鈍い音。追ってけたたましく倒れるパイプ椅子。多くの人の悲鳴、怒号。


 振り返ったそこには。


 頭から血を流し、椅子を蹴散らし床に突っ伏す須貝の姿が。


「うそ……なんで」


 血だまりはジワリ、ジワリとその大きさを広げていく。


「いや……いや、須貝さん! なんで!?」


 青白い顔の須貝は、目を開けない。


 そのまま橋野は緊急逮捕され、須貝は救急搬送された。


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