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15-1 決戦は演台で

 演台の前に橋野と対峙するような格好で向き合った。身長差があるので彼を見上げる格好になるのが少し癪に障る。


「今からのやり取りは、チサトがすべて録音録画します。よろしいですか?」

 スマホを取り出し、指さしつつ確認を取る、ふりをして様子を伺う。


「構わないよ」

 橋野には余裕すら見えた。あんな穴だらけの計画なのに、よほど自信があるらしい。女性たちに裏切られることなどないと思っているのだろうか。


「ありがとうございます。それではチサト、録画と文書化おねがい」

「がってん」



「さて橋野さん。相場とはかけ離れた金額の見積書が顧客に提出されてしまった件、ご存知ですよね?」


「まぁ、AIの()()()()()()のミスでしたね。よく覚えていますよ」

「アレの原因はなんだとお思いでしょうか」

「当時の管理者の野路さんの、設定ミスと考えておりますが」

「私のミス。そうおっしゃっていますか」

「違うんですか?」


 肩をすくめて私に尋ねる。いちいち癪に障る言い方だ。けれどこれも彼の作戦。乗ったら負けだ。


「チサト」「はいな」


 岡林がデータを改ざんしたときのログが表示された。


「見積もりに必要な基礎データが不正に書き換えられていました。このデータを学習してしまったために、チサトは見積の金額を従来のものからかけ離れたものにしてしまった。これが真相です」


「ほう。そうだったんですか。いや知らなかった」


 わざとらしいくらいに驚き、顎を撫でる。こうやって相手を小馬鹿にして苛つかせ、徐々に正常な判断をできないようにしていく。彼の常套手段だ。


「これをアナタが指示したと、データを書き換えた人間が言っていますが」

「私が? なぜ?」


 手のひらを見せて首をふる。ジェスチャーが欧米人のそれだ。けれど違和感が無いのがなんだろう、無性に腹が立つ。


「理由は後ほどお伺いするとして、指示したことはお認めになりませんか?」

「認めるも何も、なんのことやらさっぱり」


 チラと岡林の表情を盗み見ると、驚愕の表情から怒りに移り変わっていくのが手に取るようにわかる。無理もない。指示されてやったことが知らぬ存ぜぬ、すべて彼女が勝手にやったことだろうと言われたのだから。



「次にとある女性が私の悪評を流したり、別の男性社員に襲わせその内容も併せて悪評とした事件もありましたが、ご存知ですか」


「どうしても君は私を犯人にしたいらしいけれど、残念ながら私ではないよ。理由がない」


「そうでしょうか? 先程の女性社員を襲ってた音声。あの内容に心当たり、ありませんか?」


「いや、まったく?」

「アレは襲った本人が、アナタにそそのかされたと主張する女性から依頼された、と言っているんですが、本当ですか?」


「全く記憶にございませんね」

「良くない噂を流すように、指図したことも?」

「全くありません」


 次は川下がとっていたメモを表示する。


「ここにアナタとその女性とのやり取りのメモがあります。要約すると私、野路は相当なワルで悪女なので、できるだけ悪口をばらまいて退職に持っていきたい、ついては協力してくれという内容を指示されたと書かれていますが」


「そんな根も葉もない」

「その女性はいつ、だれから、どういう内容などが来たか、などを非常に整理されたメモを取っていらっしゃいました。その中にアナタの名前、バッチリ入ってますけれど」


「だから! そんな記憶はないといっている」

「……この文書とあなた方の通話記録をぶつけましたけれど、なかなかの精度で合致しますよ? これを書かれた方は相当几帳面です。これでアナタがこの方とこの時間に話をしていなかったというのは、ちょっと無理ないですか?」


「逆に君たちがねつ造したのでは? なんせITのプロとITの神にも近い存在だ。そんなデータでっち上げるのもお手の物だろう」


「……こちらもお認めになりませんか」

「だから記憶にない物は認めようがない!」


 そういうと橋野はおもむろに演台のパソコンを掴むとおもいっきり振り上げ、


「何だこんなもん!」

 と叫びながら力いっぱい床に叩きつけた。


 叩きつけられる瞬間、「きゃっ」とチサトが悲鳴を上げたのを最後にプロジェクターの画面はブラックアウトした。


 止める暇もなかった。駆け寄ってパソコンの様子を確認する。

 私が使っていた骨董品に近いノートパソコンは無残にも液晶が割れ、電源は切れていた。


 会場は異様な静けさに包まれた。


「は、ははっ。パソコンがこれでは、会話を続けることは不可能ですね! よし、仕方ない、今日のところはこれで終わりです。さ、みなさん散会です! おつかれさまでした!」


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