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14-5

「おい社長、リストラなんて聞いてないぞ!」

「組合通さないで、そんな提案受け入れられるか!」


 様々な怒号が飛び交う中、

「あーあー、ちょっとまってー」

 と間抜けな声でチサトが声を出すも、聞き届けられているような雰囲気ではない。


「こ、これはまだプランの段階で、その実際に検討する際にはもちろん、組合に」


 橋野が弁解めいたことを口にしつつ、「何いってんだいきなり!」とチサトに詰め寄っている。



「ちょっと待ってって言ってるでしょ! 話を聞きなさい!!」



 チサトが声を荒げると、会場はピタリと動きを止めた。


「全く、最後まで話を聞いてよね、いい大人なんだから……えー、こほん。今回のリストラ候補について組合に相談していないのは理由があります」


「理由? どんな」

 誰ともなしにつぶやくのが聞こえた。


「対象が組合員でなく、役員だからです」


「はぁ? それはいったいどういう意味だ?」

 社長が声を上げた。


「そのままの意味です、社長。今回の案では、社長、社長の奥様である専務、弟さんである監査役の解任を進言しています。これにより役員報酬と不要な旅費交通費、研修費などが削減され、10%の削減が実現できます。弟さんに関しては子会社の社長職も辞任いただきたく併せて進言いたします」


「はっはっはっ! そんな提案、受け入れられるわけないだろう」


 社長は大声で笑った。


「そもそも私がいなくなったらどうなるか」


「特になんの問題も、おこらないとおもいますよ。それより社長。確認させていただきたいことがあります。約3年前、正確には2年と10ヶ月まえですが、社長が個人でお持ちだった株券を子会社に売却されていますね?」


「それが、どうした」


「その辺りの経緯にいささか不明瞭な点がありまして、本件も然るべき機関に委ねるべきかと考えています」


「なにを言い出すかと思えば、なにも後ろ暗い取引ではないわ!」


「それは委ねた先が判断すれば良いことですので。それと子会社からの社長への貸付金について、あとは出張の具体的内容と、『同行者』についても……」


 徐々に社長の表情に焦りの色が見えてきた。


「貴様、何を知ってる?」

「けっこう、色々、ですよ。アイドルちゃんは何でもお見通しなんです!」


 そしてチサトは得意の横ピースを決めた。

 会場から「おお……」「かわいい……」「尊い……」「圧がパネェ」など様々な感想が漏れる。


「!……それはいろいろ、熟考したほうがいいのだろうな、お互いに」

「そうですね。できればこのまま退陣頂いたほうが、色々(・・)手間がかからず助かります」


「……来週にでも打ち合わせの場を設けよう」

「あ、あんまり時間、ないですよー。引き伸ばしてもイイこと一つもありませんよー」


 社長はグッ、とカエルが潰れたような声を発した。

「……では今日の夕方に」


「できれば専務と監査役もご同席いただけますよう、お取り計らいください」


 社長はあいさつもソコソコに慌ててその場を後にした。せいぜい家族で言い訳を考えるといい。



「なんだなんだ、これは一体どういうことなんだ!?」

 橋野が割って入ってきた。


「ちょうどよかった。次はアナタです、橋野さん」

 チサトが橋野を見下ろして微笑んだ。


「次は私? どういう意味だ?」

 画面を見上げる格好で橋野は笑う。


「そのままの意味です、橋野さん。あなた、相当なワルですね。さすがの私も若干ひいちゃいました。いや、マジスゴイ」


 パチパチパチ。チサトがひとり手を叩く。


「何を驚いているのか知らないが、しがないサラリーマンの私のドコがワルなんですか」


「ま、ここからは真打ちに話してもらおうかな? すみれさん! 選手交代だよ!」


 チサトが私をみて手をふる。私は立ち上がり、演台に向かう。

 ドコからともなく拍手がパラパラとおこり、やがて大きな拍手に変わっていく。


「な! 彼女はこの業務からすでに外れてる! 勝手なことしてもらっては困る!」


「いえいえ橋野さんそうおっしゃらずに」

 私の声かけに苛立ちを押さえきれない、といった表情の橋野がギロリと目を向けた。


「これはすでに『リバイバルプラン』からは外れた話。むしろ今から話すことが今日の中心議題です。橋野(はしの) 悠人(ゆうと)! アナタをこの会社から排除するというね!」


 鼻先に指を突きつけられた橋野は、今までに見たこともない憎悪の表情を私に向けてきた。


「それがアナタの正体、かな?」

 爽やかに笑いかけてやった。それがまた気に入らなかったようで、彼の眉尻がピクリと跳ねた。


「女の分際で、なめたマネしてくれてんじゃねーよ」


 まわりに聞こえない程度に押し殺した声で、橋野がつぶやいた。


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