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等身大のディスプレイの中には、可愛らしい女の子がいた。見た目は十五、六歳といったところか。身長はわたしより頭一つ低い。ピンクのふわふわした髪の毛に赤い瞳のアニメっぽい感じの、そう。日曜の朝にやっている女児向けアニメに出てきそうな。彼女には見覚えがあった。
「チサト・ラボラトリーズへようこそ! ビッグサイトで会って以来だね、お姉ちゃん! また会えてうれしいよ。この間もご挨拶したけれど、あたし、千聡っていいます、これでもれっきとしたAIなんだよ!? よろしくね、お姉ちゃん!」
最後に笑顔を浮かべつつ小首をかしげ、目の横でビシッとピースを決めた。完璧なポージングだ。ピンクの髪がふわりとゆれる。
「我が社の主力商品、多機能AI、チサトです」
須貝が彼女をさしてニコニコして話す。
「よ、よくできてますね」
他に感想を求めてくれるなよと祈る。ろくでもないことをいいそうだ。
「そうでしょう? とにかく見る人の耳目を集める。コンパニオンAIにとって必須の要件です。社内の専任スタッフがいちから3Dモデルを起こした自信作です。また、目的に応じて多少はカスタマイズできます。……チサト、外見をビジネスフォーマルに」
するとピンクのふわふわ髪の毛は黒いストレートに。いかにもなドレスは紺のスーツに。あっという間にパリッとしたバリキャリ風に。魔法少女はまさしく変身した。
「ジャーマン・エンジニアリング野路様、お待ちしておりました。チサト・ラボラトリーズへようこそ。担当者がご案内いたします」
格好だけでなく、口調も落ち着いたものに。話す内容もビジネスライクなそれに変わった。こんどは知的な笑みを浮かべるバリキャリなチサトに絶句していると。
「ま、立ち話もなんですからこちらに」
一瞬探るような目をした須貝は、そう言って笑顔を浮かべながら奥へとうながした。
「いってらっしゃいませ」
深々とディスプレイの中でお辞儀をするAIに薄ら寒いものを感じるのは気のせいだろうか。
プレゼンルームに通された私は、須貝からチサトの説明を聞いている。
「――というわけで、弊社のチサトにかかれば、企業内のアドミ機能を一部簡略化、あるいは自動化することが可能となるのです。つまり――」
「人を減らせる?」
言葉を受けるように継いだ。
「そう、人を……そうです。人員を削減可能です」
説明の腰を折るような、私の半分意地悪な言葉に須貝は目を見張った。てっきり気分を害するかと思ったけれど、意外だった。
「おっしゃることは何となく理解できましたが、本当にできるのでしょうか」
「弊社の製品を、お疑いに?」
須貝はにっこり笑いながら小首を傾げた。まるで『文句つける気か、いい度胸だな』とでも言いたげ。
その証拠にほら、目が笑ってない。