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「岡林さんにも、橋野さんから指示があったみたいだね。詳細はわからないけれど」
といいつつチサトは内容をかいつまんで説明してくれた。
なんでも、見積もりに使う積算の係数や、計算に使う定数を微妙に書き換え、それをAI学習用の資料にまぎれこませたという。
基礎の数字がいじられていたわけだからなるほど、見積が大幅に異なっていても納得がいく。
「これは会社のデータの変更履歴から断定できるよ。……残念だけれど」
本当に、残念だ。少なくとも一番一緒に苦労を共にしてきた『戦友』だと思っていた。それはチサトがいる今でも変わらないと思っていた。
「私の勘違い、だったんだね」
不思議ともう、悲しくはならなかった。たださっきまではさざ波程度だった心のうちは、今や白波が立つ程度にはざわめきを増していた。
「すみれさんがやったことは、それほどインパクトが強かった、っていえるとおもう。だからこそ反発も大きいんだと、そう思った方がいいよ」
チサトが気を使っているのか、随分と大人な発言をする。
「心配しなくていいよ、チサト。なんていうか、思ったほどショックじゃないみたい」
そう、いま心を支配しているのは、すべてに一矢を報いたい。ただそれだけだった。そのためならたとえ今まで世話になった人に対してであっても、ためらいなく報復を与えられる。
「余計に心配だよ、すみれさん……」
チサトの声が、静かに部屋に響いた。
「まぁ、この子が言うことは納得できるな」
「心配だってこと?」
私の投げかけにフジコが苦笑いでうなずく。
「うん。今のすみれ、復讐の鬼になるって感じの雰囲気出してるからさ」
「……気配は絶っていたつもり、なんじゃがな」
「ばか、殺気まみれだよ。そんな差し違えてでも、みたいな感じで攻めて行っても返り討ちにあうだけだよ。どうせやるなら、生き残りたくない?」
「そうだよすみれさん。自分がハッピーになる戦いにしなきゃね!」
「……わかったわよ。ちゃんと考える」
「うんうん、それでこそ、わたしのすみれさんだよっ」
「なに『わたしの』って」
「えへへ、ないしょ。……さてすみれさんが鎮まられたところで」
「私は祟り神かなにか?」
「もう、そこはつっかかってこないの。で、正攻法ではどうしようもないから、搦め手で行くしかないと思うんだよ」
「ふむ。そうだね。まともに相手しても、一対一でも煙に巻かれて終わると思うな。……衆目の前で暴露出来れば……」
「……全社朝礼で暴露してみるってのはどうだろう」
「いやだってすみれさんが話せないじゃ……いや待って。なにもすみれさんが中心になって話す必要は無いんだよね」
「うん? ……そうね。企業改革の総仕上げということで、あの腰巾着に音頭とらせれば」
「なるほど! 気分よく大々的にぶち上げる場が、一転自らを断罪する断頭台になるんだ! 最高の舞台じゃん!」
「あとはそのキルゾーンにどうやっておびき寄せるか、だけれど」
その時意外な声がスマホから流れた。
「それは僕の方でやりましょうか」




