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13-2

「岡林さんにも、橋野さんから指示があったみたいだね。詳細はわからないけれど」


 といいつつチサトは内容をかいつまんで説明してくれた。

 なんでも、見積もりに使う積算の係数や、計算に使う定数を微妙に書き換え、それをAI学習用の資料にまぎれこませたという。


 基礎の数字がいじられていたわけだからなるほど、見積が大幅に異なっていても納得がいく。


「これは会社のデータの変更履歴から断定できるよ。……残念だけれど」


 本当に、残念だ。少なくとも一番一緒に苦労を共にしてきた『戦友』だと思っていた。それはチサトがいる今でも変わらないと思っていた。


「私の勘違い、だったんだね」


 不思議ともう、悲しくはならなかった。たださっきまではさざ波程度だった心のうちは、今や白波が立つ程度にはざわめきを増していた。


「すみれさんがやったことは、それほどインパクトが強かった、っていえるとおもう。だからこそ反発も大きいんだと、そう思った方がいいよ」


 チサトが気を使っているのか、随分と大人な発言をする。


「心配しなくていいよ、チサト。なんていうか、思ったほどショックじゃないみたい」


 そう、いま心を支配しているのは、すべてに一矢を報いたい。ただそれだけだった。そのためならたとえ今まで世話になった人に対してであっても、ためらいなく報復を与えられる。


「余計に心配だよ、すみれさん……」


 チサトの声が、静かに部屋に響いた。



「まぁ、この子が言うことは納得できるな」

「心配だってこと?」


 私の投げかけにフジコが苦笑いでうなずく。


「うん。今のすみれ、復讐の鬼になるって感じの雰囲気出してるからさ」


「……気配は絶っていたつもり、なんじゃがな」


「ばか、殺気まみれだよ。そんな差し違えてでも、みたいな感じで攻めて行っても返り討ちにあうだけだよ。どうせやるなら、生き残りたくない?」


「そうだよすみれさん。自分がハッピーになる戦いにしなきゃね!」


「……わかったわよ。ちゃんと考える」


「うんうん、それでこそ、わたしのすみれさんだよっ」


「なに『わたしの』って」


「えへへ、ないしょ。……さてすみれさんが鎮まられたところで」


「私は祟り神かなにか?」


「もう、そこはつっかかってこないの。で、正攻法ではどうしようもないから、(から)め手で行くしかないと思うんだよ」


「ふむ。そうだね。まともに相手しても、一対一でも煙に巻かれて終わると思うな。……衆目の前で暴露出来れば……」


「……全社朝礼で暴露してみるってのはどうだろう」



「いやだってすみれさんが話せないじゃ……いや待って。なにもすみれさんが中心になって話す必要は無いんだよね」


「うん? ……そうね。企業改革の総仕上げということで、あの腰巾着に音頭とらせれば」


「なるほど! 気分よく大々的にぶち上げる場が、一転自らを断罪する断頭台になるんだ! 最高の舞台じゃん!」


「あとはそのキルゾーンにどうやっておびき寄せるか、だけれど」


 その時意外な声がスマホから流れた。


「それは僕の方でやりましょうか」


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