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13-1 すみれは意外としぶとい子、だから!

「突然ですがすみれさん。ずいぶんモテてるよねぇ」


 不意打ちのように放たれたチサトからの言葉に、正直面食らった。


「え、なによ藪から棒に」


「この間のイメチェンからこっち、男性のトレンドワードの上位に一気に駆け上がってますよ、すみれさん」


 そういって社内SNSのワード分析の内容を表示した。私とフジコ、肩を寄せ合うようにスマホの画面をのぞきこむ。


 私の名前が、確かにイメチェン後大きく出現数を伸ばしている。関連語――私の名前に付随してどのような文字が書かれているかは……


「髪型」「彼氏」「フリー」「かくれ巨乳」……


 フジコが舌打ちした。


「これは男性の結果。女性の方がこれまた面白くてね」


 そして女性の結果に、思わず「うぇっ」と声を上げてしまった。


「生意気」「姫プレイ」「枕」「デブ」


 フジコは今度は吹き出す。


「笑わないでよ……」

 すぐ隣のフジコを見て抗議する。


「ふっ、ごめんごめん。でも笑うなっていうほうが無理ない? 会社の中で枕ってなんだよ」


 フジコはにやける表情を隠しもせず、スマホの画面を指さして弁解する。


「社長に対して、ってことかな? 御免こうむりたいけれど」


「ねね、社長ってどんなの?」

 もうフジコも心得たもの。チサトに社長について尋ねる。


「こんなオジサンだよ」

 と応じたチサトの言葉のあとに、スマホには見慣れたけれど見慣れないカエルのような社長のバストアップ画像が表示された。


「うーん、これはツラいなぁ」

 フジコが顔をしかめて身を起こす。


「辛いっていうか無理でしょ」

 笑って私も後に続く。


「で、ここからが本題。このワードを最初に流したのが、あの川下さんなんだよ」


「そう……なんだ。理由とか、わかるのかな」

 少しモヤっとしたものが胸をよぎったが飲み込んだ。


「うーん。それは特に理由がないようだから、単にムカついたんじゃない? 自分以外のKAWAIIが許せないとか」


「自分に自信無いのかね」

 カカッ、とフジコは笑う。


「で、しばらくしてから橋野さんと川下さんの内線通話が有意に増加しているね。あとは川下さんと中倉さんの携帯電話間も同様に通話が増えてる」


「もう一つ。意外と川下さんはマメな性格みたい。橋野さんと何を話したかをメモしているんだよ。脇が甘いのは、それをパソコンで記録していたこと。私に筒抜けなのに」


 そう言ってメモを見せてくれる。

 そこには言葉巧みに川下を仲間に引き込み、私へ攻撃するよう仕向ける、狡猾なやり取りがかかれていた。


「ここまでして私から成果を奪い取りたかったのかなあ。そんなことしなくても、立場的にはもう充分なんじゃないの?」


 私のボヤキにフジコが答える。


「一番のお気に入りじゃないと、ダメなタチなんでしょ。すみれが社長のお気に入りになるのが我慢ならなかったんじゃない?」


 それだけ? それだけで私はこんな目にあってるのか!



 川下のメモには、中倉とのやり取りも含まれていた。


「こりゃエグいな。上手く取り入って既成事実作って噂流せって……物騒だなあ」


 フジコは笑っているが、目は笑っていない。


「通話の内容は記録出来ないけれど、この内容と通話記録の状況証拠で追い詰めることは出来そうだけれど、どうかな?」


 チサトの提案にうなづく。


「えと、じゃあ復讐リストには川下さんを追記すると」


「うーん、実はもう一人……私の成績を意図的に落とした人がいるんだけれど……」


 チサトは言い淀んだ。こんなときは大体ツライ事実を伝えるときだ。


「なによ、もったいぶらないで洗いざらい出しなさいよ」


 フジコがチサトをせっついた。この子の順応性の高さにはいつも舌を巻く。


 しかし同時に今のやり取りに違和感を持つ。


「ちょっと待って。そんなことが可能なの?」


「うん。学習データを意図的におかしなものに変えられていたら、私たちはそれが正しいものとして学習しちゃうから、ある程度可能だよ」


「そんなことを、誰が」


「岡林さん、だよ……」


 その名前に一番衝撃を受けた。岡林さん。いつも大変な時手伝ってくれる数少ない女性の同期社員。まさか彼女の名前が出るとは思いもしてなかったから。


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