12-5
フジコにはいつも驚かされる。仕事のこと、なにも言ってないのに。口をあんぐりあけて見つめていると、彼女は眉を寄せてさらに続ける。
「なによ、それか私に文句でもあんの?」
「ううん、違う。どうしてフジコって私のこと、そんなに知ってるの?」
今度はフジコがあきれたような顔をした。
「はぁ? 親友だったら当たり前でしょ、何言ってんの」
「親……友? 私の事?」
自らを指さしてフジコにたずねると、ちらと私を見てすぐにフイと視線を外す。
「いまさら何言ってんの」
「フジコは、私に、仕方なく付き合ってくれてるんだと思ってた」
「怒るよ」
今度は私に向き直り、睨みつけてきた。
「ご、ごめん。でも……ホント?」
「嘘ついてどうすんのよ」
ぶっきらぼうにいうフジコの横顔がとっても綺麗で。そしてすこし頬が桜色に染まっているのをみて、なんだろう。とても愛おしくなった。
「……フジコ」
「なに」
「だいすき」
ギュッとフジコに抱きつく。
「ちょ! おおおお前なにやってんだよ!」
慌てる彼女の様子がとても可愛くて、イタズラ心が芽生える。
「だいすき!」
「わ、わかったから離れろ!」
「えー?」
「いいから、は・な・れ・ろ!」
おちついてから、私は会社で起こった顛末の一部始終をフジコに話した。全てを聞き終えるまで、彼女はじっと聞いてくれた。
一通り聞き終わった彼女は開口一番、
「なんか、クズばっかだな、すみれの会社」
と的確な一言を発した。
「で、どうすんの、これから」
「どうするって?」
「泣き寝入りするの? こんだけひどい目にあって」
「もういいよ。だって私、何の力も持ってないし。証拠もないし」
首を振ってうなだれる。口元が笑うのは、自分の境遇をせせら笑う気持ちから。
「そんなこといって。悔しくないの?」
「悔しいよ。悔しいけれど、私だけじゃ、なにもできない。変えられない」
「何言ってんの。まだまだこれからでしょ? ぎゃふんと言わせなよ!」
「でも、今さら何もできないよ」
会社に仲間はいない。そのうえ変な噂は流されて理解を得られそうもない。
「本当にそう? ……ねぇ、聞いてんでしょ? チサト、だっけ? 出てきなさいよ」
フジコは私のスマホに向かって声をかける。
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」
チサトは頭にターバンを巻いての登場だった。芸が細かい。
「うわ、なんだこのAI。みんなこんななの?」
突然の登場とそのセリフ回しに、さすがのフジコも面喰っている。
「ううん、多分この子が特別製なんだと思う」
「ふっふーん。スペシャルメイドの美少女アイドルAI、チサトです!」
定番の横ピースを決めるが、ターバン姿なのでいまいち締まらない。
「ま、アイドルかどうかはどうでもいいわ。ね、チサト」
「ええっ! 見た目は大事なんですよ」
今度はチサトが驚く番だったが、フジコが気にする様子は全くない。
「いいから。なんか手ないの? アイツらやっつけるいい手」
最初は口をとがらせて抗議の意思を見せていたチサトだけれど、フジコの雰囲気をみて、急にマジメモードに切り替わった。
「アイツらが具体的に誰を指すのかによるけれど……大体対応可能じゃないかな。でも手段を話す前に少し、分かったことを話すね」
「分かったこと?」
首をかしげると、チサトは軽く頷いた。
「うん。それを聞いたら多分、やっつける相手は、もう少し増えるんじゃないかなと思うよ」
ええ? 社長、橋野、中倉。私がはめられたのはこの三人だけでないということか。