2-2
「おや、こんにちは野路さん。早速いらしてくださったんですね、うれしいなぁ」
軽く手を振る代表の須貝さん。笑顔がとっても眩しい。それに先日気づいてはいたけどホワイトニングでもしているのだろうか。歯がくっきりはっきり芸能人みたいに白い。そっちも眩しい。
なんでここに。これもAIの力なのか?
「あ、いえ、まぁ、はぁ」
曖昧な返事をする私を訝しむ様子を見せることもなく、「さ、こちらです」とさり気なくエスコートするところなんか、嫌味なくイケメンでもう腹も立たない。
建物の自動ドアをくぐるととたんに喧騒は収まった。サワサワとした人々の話す声とコツコツといくつかの靴の音だけが響く空間に様変わりする。
「しかしこんな偶然もあるんですね」
須貝は首を少しこちらに向けて笑った、ように見えた。
「外回りされていたんですか?」
身長差から見上げるような格好になる私は、身体を捻って須貝を見る。
「ええ。ちょうどワンブロック向こうの銀行さんから引き合いがありまして。いい感じにまとまって、ちょうど帰ってきたところでアナタに」
対して彼は部下の一人だろうか、同行している男性が小走りにエレベータを呼び出しにいく。
須貝は立ち止まると私に向き直った。
「それにしてもボクは相当に運がいい」
「なぜです?」
「アナタにまた会えたから、ですよ」
そんな言葉に耐性のない私は、途端に余裕を無くした。心臓がドクンと跳ねる。
「え、なに、どういう意味です、か」
「それはもう、折角の製造業第一号のお客様になって頂けそうなので」
須貝は破顔して嬉しさを表現した。
「あ……そう……そうです、よね。はは」
何期待してんの私。
「それに、担当の方がとても可愛いというのも有りますが」
「かっ、かわっ」
みるみる顔が熱くなるのがわかる。
「あぁ、仕事の席で不謹慎ですね、失礼しました。忘れてください」
「はい……」
「けれどびっくりしました」
「はい?」
「スーツ、とてもお似合いだ」
「あっ、ありがとう……ございます」
この人どこまで本気で言ってるんだろう? いつもこんな調子なのかな。
視線を巡らすと、同行の男性と目があった。
ホントすみません――そう、目で訴えかけてきていた。
ああ、きっとこの言動は、須貝のスタンダードなんだ。平常運転なんだ。
そう考えるとホッとした気持ち半分、すこし寂しいような気持ち半分。なんだかモヤッとしたものが心の隅っこに残った。
変に納得したところでエレベータの扉が開く。そこにはいかにも受付っぽい光景と、同時にあきらかに場違いなオブジェが迎えてくれた。
そこには可愛い女の子が立っていた。――ただし二次元の。