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11-2

「ねぇふなちゃん。やっぱ今の仕事、わたしには向いてないのかなあ」


 金魚のふなちゃんはしばらく私のことをじっと見たあと、ゆっくり泳ぎ始めた。


「そうだよね、わかんないよね」


 ふなちゃんは知ってから知らずか、のんびりヒレを揺らす。



 バカにされたくない、ふざけるな。


 その一心でやってきたけれど、いざやってみると思っていた以上に今の仕事は辛いことが多かった。特に役職を得てからなど、明らかに拒絶な反発の色が濃くなってきている気がする。


 ドコまでいっても便利屋のイメージから自分もみんなも離れられないようで、自分たちの仕事の工夫でなんとかなるだろという内容まで持ち込んでくる。そのため業務の整理から手伝わないといけないということもしばしばだ。私達に求める要求の整理くらいは予めやっておいてほしい。


「仕方ないのかな」


 一般的にIT関連の知識は独特な感覚が必要、らしい。らしいというのは、携わっている本人にはそう思えないからだ。


 例えば某大手自動車メーカーの名が冠されて有名な「問題解決8ステップ」。設計の人たちはひとにより巧拙(こうせつ)はあるものの、概ね活用して仕事をしているように思える。


 けれどもことITの名がついた途端にその考え方が吹き飛んでしまい、「ITでなんとかして」みたいな小学生レベルな要求をする。


 わからないことを傘にきて、全てを丸投げするのだ。


 意識改革をしてほしいと思っているけれど、これは一朝一夕でなんとかなるものでもないだろう。


「私がやらされてるのもそのはずなんだけれどね」


 金魚鉢のふなちゃんを見て笑う。

 企業改革なんてそれこそ数年単位の一大事業だ。にも関わらずいち係長に丸投げでしかも半年足らずで結果を出せ、とか……。


「無理ゲーにも程があるでしょ……」


 こたつに突っ伏しため息をついてから、顔をふなちゃんに向ける。

 ふなちゃんはクルリ、クルリとおよぐ。

 まるで大丈夫、頑張って、と言ってくれているようにも思えるのだけれど。


「頑張りたいけれど、最近ちょっと……重いかな」



 実家の母からはまた「孫はまだか」の電話がかかってきた。

 カレシもしないのにどうやって孫作るんだよって言ったら、アンタは私の娘なんだから男の一人や二人、イカを釣るより簡単でしょう? って言ってのけた。


 相手をイカに例えるのもアレだけれど、母親のその根拠のない自信の中身も逆に詳しく聞きたくなった。怖くて結局聞かなかったけれど。


 とにかくはやくイイ男を見つけなさいというけれど、会社の男どもを見るにつけ、男に対して絶望しか抱かない。なんでアイツらは揃いも揃ってバカで粗暴で自己中なんだろうと思う。


「――ま、あのひとはちょっと違うけれどね」


 須貝の顔が浮かんだとき、今までの感情がフッと消えた気がした。


 そう言えば今日、ふと思い出したことがある。


「そう言えば今日……女の子と話してない……」


 こう言うとオジサンの物言いに聞こえるかもしれないけれど、仕事中に同年代くらいの女性社員と話してないということだ。ふわふわ成分が足りない。


「今日も忙しかったからなぁ、オジサンとお兄さんたちの相手に」


 立ち上がって伸びをする。おもわずあくびがでる。今日はもう寝よう。


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