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「そう思えるのは、従業員のことを思っているから。そうでしょう」
「ちがいます! 単に私がしたくないだけ。彼らの生活を脅かすような、そんな決定の一端を私が、チサトが、担うのが辛いだけなんです」
話しているうちにこみ上げるものが抑えられなくなってくる。
「けれど辛いっていうのは、単に私達が悪者になるのが耐えられないってだけなんです! 本当のところは、彼らが解雇されようがどうだって良いんです! そう考えちゃう自分が、とても。とても嫌なんです!!」
最後は叫ぶように、振り絞るように心の奥底の感情が口をついて出た。
「積極的に彼らを解雇するなんてプランは作りたくないんです。でもどうしたら社長が納得する答えをだせるのか……わからないんです」
須貝がハンカチを差し出してきたのをみて、はじめて自分が涙を流していることに気づいた。遠慮して自分のハンカチをバッグから取り出し、目尻を押さえる。
「おっしゃることは理解できます。んー、そうですね……こんなときこそ、頼りになるのは相棒ではないですか?」
「――そうだねぇ。代表も、たまには良いこと言うねぇ」
この声は。
「いま、チサトと話せるんですか?」
「今まで私だけが使っていたスマホのアプリなんですけれどね」
そういって須貝はみずからのスマホを取り出し、指差した。その画面にはピンクのふわふわがキュートな美少女アイドルちゃんが、ドヤ顔で仁王立ちしていた。
「そうだよすみれさん。チサトちゃんと話せなくて、さみしかった?」
横ピースを決めた相棒は、スマホの画面でも存在感十分だった。
「うう、チサトぉ」
「もう。どうしたの、すみれさん。色々あって疲れちゃった?」
「うええ。あんな提案出すの嫌だよぉ、アタシ」
「うへ。酔っ払ったすみれさん、予想以上に面倒なフンイキ」
「なんでそんな事言うのアタシの話きいてよチサトぉ」
「はいはいわかったわかった。聞いてあげるから、ね?」
そうやってその日はチサトにいっぱい慰めてもらった……気がする。
須貝からも全力でサポートするという温かい言葉をもらった。それでまた少し泣いた。
私は恵まれている。社外に、こんな強力な助っ人がいてくれるのだから。
週明け。
朝一恒例の雑談、もといミーティングの冒頭で、めずらしくチサトが冗談を言わなかった。
「さてすみれさん。要は誰も首にしたくないってことだよね?」
「そうだけれど、実際そんなこと可能なの?」
「ま、確実かと言われれば外乱が多くなるから正直100%ってわけにはいかないけれど、七割くらいにまでは持っていける方法、ないこともないけど」
「え、そんな方法あるの?」
チサトは私の質問に直接は答えず、逆に質問を返してきた。
「ねえ、すみれさん。リストラってなんでやるとおもう?」
「え? 人件費の抑制?」
「そうだね。その効果は?」
「固定費の抑制、つまり利益の確保とキャッシュフローの向上」
「正解。要は利益の確保とキャッシュフローの改善ができれば他の方法でもいいってことだよね」
「他の方法?」
この子は今度は何を言い出すんだろう?




