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10-2

 出社するなり、社長から呼び出しが掛かった。


 最近社長はご機嫌なことが多い。チサトと進めている施策が上手くいっているから、かどうかは言わないけれど、業績が上向いているからだろう。


 そんな社長が私を迎えると開口一番、言い放った。


「おはよう、野路君。早速で悪いんだが、従業員が一割減らしてくれ。年度末までだ」


 最初社長が何を言っているか、理解できなかった。

 え? 社員を減らす? それって……リストラ?


「あ、あの。お言葉ですがせっかく業務を整理して残業時間を減らして働きやすくなったところで人を減らすなんて」


「だからだろう」


 被せるようにつづいた社長の言葉に言葉を失った。


「それだけ人を減らせるという事じゃないか」


 ニヤリと笑う社長は、口を開いたものの二の句を継げない私を尻目に言葉を続ける。


「人選は君と人事に任せるよ。もう人事には話してるから、このあと会話してくれ。質問は? ……ないなら以上だ。いつものように(・・・・・・)、頼むよ!」




「ま、何とかなるんじゃないかなぁ」


 チサトがのんびりと言った。


「何とかって、なによ」

「え? 一割減らせばいいんでしょう? この会社の正社員比率は70%。余裕じゃん」


 事も無げに言うチサトに若干のいら立ちを覚えた。


「ねぇ、それって三割の非正規雇用の人を切るって言ってる?」

「そうだよ? 一応(・・)ここ、組合あるしね。正規雇用の従業員を下手に切ったら後が大変だよ」

「そういうこと言ってんじゃない。非正規の人達だって生活が」


「そりゃあるだろうけれど、それはすみれさんのミッションと何の関係があるの?」

「なんのって……」


「すみれさんに課されたミッションは従業員を一割減らす方法を考えること。()()()()だよ。リストラした人たちのその後を気にするのは人事であり行政だから――」


 リストラという単語を聞いた瞬間、沸騰した。


「それだけって、そんな割り切れるわけないじゃない!!」


「すみれさん」

「ん? なんだなんだ、AIと喧嘩?」


 周りの社員が何事かと声を上げた。ついつい声が大きくなってしまった。


「今まで一緒に働いてきた仲間を、何の感情も持たずに切り捨てるなんて。そんなの……」


 いつの間にか涙が溢れてきた。


「そんなの、ただの機械じゃない……」


 チサトはなにも答えない。




 今日も設計やら試作やらの困りごとが次々に舞い込んでくる。


「と、いうことなんです。この法規関連の資料が自動で出せればずいぶん工数低減と品質向上に……ってあの、野路さん?」


「えっ、あっ、はいすみません」

「大丈夫ですか? なんだかお疲れのようですけれど」

「ごめんなさい、大丈夫です」


「私が全部聞いているから大丈夫だよ。抜けてる所があったら後で教えるね」

「……ありがとう、チサト」



 一通りのヒアリングが終わって相談者が立ち上がった時、初めて相手が女性だったことに気づいた。そんなことにも気付かないくらい、リストラ業務というものに心を支配されている自分にも今さらながら気づかされる。


 そしてあることに気が付く。


「ねぇチサト。相談者の所属氏名、記録してるわよね」

「もちろん」

「その人たちの雇用形態、出せる」

「……気付いた?」


 そう言ってチサトが出したリストは、私の懸念を事実として認識させるに十分だった。


 相談件数 63件に対し59件。その比率実に94%。


 提案者のほとんどが非正規雇用の従業員だった。


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