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9-5

 社長と腰巾着から提案実行を命じられてから一週間が経とうとしていた。


 私は理不尽な状態に追い込まれていた。



「――野路さん、ちょっと相談があるんだけれど」

「はい、どうされましたか?」


「すまない野路くん、彼の後で構わないから、後で私の席に来てくれないか」

「はい、わかりました。すみません、順番にお伺いしますので、またご連絡しますね」


「すみれちゃん、お茶……は自分で入れてくるね」

 浦野がやってきたが、周りの剣幕におされ、スゴスゴと帰ってしまった。


「はい、どういった困りごとですか?」

 最近は笑顔も得意になってきたかもしれないぞ。




 おひる休憩直後からおやつの時間も質問攻めにあい、ようやく解放されたのは定時も見えてくる16時。ロクにお菓子どころかコーヒー一杯にすらありつけなかった。


「つかれたよー、チサト」

 そのまま机に突っ伏した。

「あー、糖分がたりない……」


「リアルって不便だね」

 頭上でチサトが同情とも単なる感想ともつかない微妙なコメントをくれた。


 突っ伏したまま呻くようにつづける。

「トイレに行く時間もないって、きっとこういうことを言うんだろうね」

「今がチャンスじゃないかな?」

「なにが」

「トイレ」

「お茶も飲んでないから出るものない」

「便利だね」

「ヒドイ言い草だ」

 ゴロンと顔を横に向けチサトを睨んだ。ディスプレイの中のアイドルちゃんは紅茶のカップ片手に優雅に読書なぞしている。


 ちょっぴり腹の立つ絵面だ。



 それもこれも社長だ。

 今日の午前中、全体朝礼があった。その中で社長は今回の成果を大々的に社員の前で公表した。

 この一週間の成果は、控えめに言っても素晴らしいものだと思っている。腰巾着の橋野が実施したアドミ的施策と合わせ年度末に向けた残業半減計画は達成の見込みとなった。この功績をたたえるとして私は社長賞を授与された。


「これからも、しっかり励んでくれたまえ!」

 そう言って渡されたのは『金一封』! 後で確認した中身はあのドケチの社長とは思えない、諭吉さまが十人! 現ナマで見たの久しぶりだわ。いつも Web通帳の数字でしか見ないけんね……。


 ところで授与式のさなか、とんでもない事を言ってくれたのだ。


「これからITでの困りごとは、どんどん野路くんに言ってくれ! 彼女が何でも(・・・)解決してくれるぞ! まさに彼女はわが社にとって救世主! これからもたのんだよ、野路くん!」


 会場がにわかにどよめく。私の心もざわめく。


「ったく、なにもあんな場で大風呂敷ひろげなくても……」

「あの、野路さん? 大丈夫?」


「え? あ、はい! 大丈夫です」


 起き上がってみると、1人の男性社員。


「そう? あのー、さ。今度の金曜日の夜なんだけれど、時間空いてないかな?」

「え? どうして、ですか?」


「俺ら同年代でさ、たまに飲んでるんだけれど、良かったら野路さんもどうかな、って」

「……あの他にはどんな方たちが?」

「あ、男女同数くらいなんだけれど、だいたい25~28くらいの集まりなんだ。どうかな?」

「ちょっと予定を確認しないと。お返事は明日……は休みですから、あさってでもいいですか?」

「全然おっけーだよ、皆期待してるからさ、返事、期待しちゃってるね! それじゃ!」


「ひゅーひゅー。出来る女はモテますなぁ」

「なによ、そんなんじゃないでしょ。数合わせよ」

「そうかな? 彼すっごく緊張していたけど」

「そんなのわかるんだ」

「わかるよー、声聞きゃ誰だって。で、どうするの? 今度の金曜日はセミナー、休みでしょ」

「うん……ちょっと考えてみる」

「はー、これだからコミュ障は」

「うっさい! ……今日はもう定時ダッシュで帰る! つかれた!」




 急に皆どうしたんだろう。

 やっぱり社長の一言だよね……。こんな地味で取り柄のない女が興味持ってもらえるわけ――


「アンタ、喧嘩売ってんの? 買うよ。1G(ゴールド)で買ってやんよ」

「なによ喧嘩なんか売ってないわよ。それに何よ 1Gって。金一キログラム? それならいくらでも売ってあげるわ」


 今日の出来事をフジコに話したら、開口一番、返事がこれだった。


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