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「じゃ、どれから行く?」
チサトが改善案リストをずらりと並べてくれた。
「んっと、これどう? 設計クロスチェック業務。これ自動化できない?」
この仕事は目の当たりにして「こんな事やってたら、この会社潰れる……」って割とガチで思った業務だ。
設計者がふたりペアで部品表と仕様、引当表の三種類を見ながら品番や組み合わせをチェックするという内容で、なんと紙に印刷したエクセルシートを声に出して読み合わせするというものだ。
一度マクロでやってみましょうか? と言ったらとある設計者に「この読む行為が大事なんだ!」と怒鳴られてからアンタッチャブル案件となっている。
ちなみにその人はその後、同僚を殴って懲戒解雇された。その事を聞いたときは殴られなくてよかったと思ったものだ。
「いいんじゃないかな? マークとかルールとかは決まっているから、楽な方だと思う」
「じゃ、これでいってみますか。よろしく、チサト」
調べていくとそれぞれのエクセルデータも個別の設計用のシステムから出力しているだけということで、すべてをデータで処理することができるようだった。
チサトは前工程のシステムなどをどんどん連結していって、昼前には試行ができる状態にまで持ってきてしまった。
実験台も、ちょうど正式図面を出す前の、まさにチェックが必要な部品があったので早速実験に使わせてもらうことにした。
「んじゃ動かしていい? すみれさん」
「う、うん。やってみて」
「じゃあいっくよ~、ポチッとナ」
画面には実行中という文字と、経過時間が秒単位でカウントアップしていく。
インターフェースは実に無骨だ。AIに美的センスは求められないのかもしれない。これは今後の課題かもしれないって須貝に言っておこう。
進捗のパーセンテージが恐ろしい勢いで上がっていく。そして。
“ピローン”
「あ、おわったよ」
「え、もう!? 開始から2分も経ってないよ?」
データを確認すると、チェック完了のマークが並ぶ中、二箇所の引当ミスが判明したことを示していた。
その結果を見た設計者は「今までの手間はなんだったんだ……」と少しうなだれる様子を見せた。
「今のチェックですが、普段どれくらい時間を掛けてるんです?」
「24h」
「え、3日掛けてるんですか!」
「いやいや、一人あたりだから2人で48h、6日分だよ。それを残業して2日で仕上げてる」
「あとは余計なお世話かもだけど、設計ミスじゃね? ってのを見つける機能もつけたよ」
「どんな機能?」
「周辺のスペックから著しく逸脱している部品を選んでるとか、材質違いや質量、原価がかけ離れてるとか。そういうのを見つけるの」
「ああ、それは使えるかもしれない。しばらく回してみようか」
それからあれこれ細かい注文はついたけれど、工数が劇的に下がるチェックツールは大いに歓迎だよと、最後は意気揚々と帰っていった。
「一応成功、なのかな?」
「滑り出しは順調だと思うよー」
あとはじゃんじゃんこなしていきますか!
そうやってどんどんやった結果。
翌週には、なんだか妙なことになってしまった。