表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/69

8-3

 なにか音がする。寝返りを打つとスルスルとシーツの肌触りが心地よかった。


 携帯のアラームが鳴っている。


 ウチのベッド、こんなにふかふかだったっけ? ああそれよりアラーム。


 朝だ、起きないと……と携帯を探るがいつもの場所にない。随分遠くにあるみたいだ。昨日充電するのを忘れたのだろうか。


「あっ……()うー……」

 頭がガンガンする。二日酔いだ。昨日は飲みすぎたかな。


 そう言えば家に帰った記憶がない。

 ええとたしか須貝と食事してワインがとても美味しくて、意気投合して近くのバーに行ってそれから……


 とにかく携帯を止めよう。考えるのはそれからだ。


 グワングワンと痛む頭に顔をしかめながらノロノロと体を起こす。顔を上げたその目に飛び込んだ周囲の様子に、違和感を覚える。


「どこ、ここ?」


 ホテル、とかではなさそうだった。けれど高そうな部屋に調度品。窓の外は……青い。空?

 するりとシーツから抜け出すと自分が下着だけになっていることに気づく。


「えっ。服は……どこ?」


 キョロキョロ辺りを見回してもとりあえず見当たらなかったので、まずはアラームをと、音のする方へ行く。すぐ近くの一人がけソファに、私のバッグがあるのを見つけた。


 取り出してアラームを切った。午前6時を7分過ぎていた。ほっとして周りを見回して愕然とする。


 すぐわきの三人がけソファに、須貝が寝転がっていたからだ。


「なっ、なっ……」


 私の言葉に身じろぎをしたかと思うと、須貝はゆっくりと目を開けた。


「ん? ……あぁ、おはようございます、すみれさん。よく眠れましたか?」

「は、はい……おかげさまで」


 我ながら間抜けな返事をしたものだと思う。


「それはよかった……あ、それよりも――」

 そういうと須貝は視線を露骨に外した。


「はやく、きたら」


 えっ。私に来いって言ってる? それってやっぱり!? あああ!! 酔っ払ってなんてことをっ。


「服。ベッドの脇のテーブルとクローゼットに掛けてありますからその……着たほうがいいと、思いますよ」


 その言葉に、今更ながら下着姿だったことを思い出す。


「す、すすすすすすいません!! お見苦しいものをっ」


 顔から火が出るかと思うほど頬が熱くなった。……穴があったら入りたい。




 ペットボトルのミネラルウォーターを一本一気飲みし落ち着いた私は、今はコーヒーを頂いている。展示会で味わった、あの豆だった。


「……ほんとにどうも、すいません」

 とりあえず無事にワイシャツとスカートを履いてソファーに腰掛け、どこかの落語家よろしくしょんぼり深々と頭を下げた。


「いえそんな、謝らないでください。私も飲ませすぎてしまいました」

 そう言って今度は須貝が頭を下げる。


「ごめんなさい。つい楽しくて飲みすぎちゃったみたいです、本当に恥ずかしい」


「いやいや、それを言うなら私こそ、楽しかったです。こちらこそ謝らないと。すみません」


 お互いに頭を下げた状態でしばらくお見合いとなってしまった。


「……あの、これだとキリがなさそうですから、このへんで」

「そうですね。はは」


 お互いに身を起こし、苦笑いを浮かべつつ困ったことになったと思っていた。

 まずは昨日の顛末を聞き出そう。



「いやすみれさん、ゆうべはすごかったですよ」


 そんなふうに言わないで! そんなにすごくなかったでしょ私!


 ……ああもう、泣きたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ