8-3
なにか音がする。寝返りを打つとスルスルとシーツの肌触りが心地よかった。
携帯のアラームが鳴っている。
ウチのベッド、こんなにふかふかだったっけ? ああそれよりアラーム。
朝だ、起きないと……と携帯を探るがいつもの場所にない。随分遠くにあるみたいだ。昨日充電するのを忘れたのだろうか。
「あっ……痛うー……」
頭がガンガンする。二日酔いだ。昨日は飲みすぎたかな。
そう言えば家に帰った記憶がない。
ええとたしか須貝と食事してワインがとても美味しくて、意気投合して近くのバーに行ってそれから……
とにかく携帯を止めよう。考えるのはそれからだ。
グワングワンと痛む頭に顔をしかめながらノロノロと体を起こす。顔を上げたその目に飛び込んだ周囲の様子に、違和感を覚える。
「どこ、ここ?」
ホテル、とかではなさそうだった。けれど高そうな部屋に調度品。窓の外は……青い。空?
するりとシーツから抜け出すと自分が下着だけになっていることに気づく。
「えっ。服は……どこ?」
キョロキョロ辺りを見回してもとりあえず見当たらなかったので、まずはアラームをと、音のする方へ行く。すぐ近くの一人がけソファに、私のバッグがあるのを見つけた。
取り出してアラームを切った。午前6時を7分過ぎていた。ほっとして周りを見回して愕然とする。
すぐわきの三人がけソファに、須貝が寝転がっていたからだ。
「なっ、なっ……」
私の言葉に身じろぎをしたかと思うと、須貝はゆっくりと目を開けた。
「ん? ……あぁ、おはようございます、すみれさん。よく眠れましたか?」
「は、はい……おかげさまで」
我ながら間抜けな返事をしたものだと思う。
「それはよかった……あ、それよりも――」
そういうと須貝は視線を露骨に外した。
「はやく、きたら」
えっ。私に来いって言ってる? それってやっぱり!? あああ!! 酔っ払ってなんてことをっ。
「服。ベッドの脇のテーブルとクローゼットに掛けてありますからその……着たほうがいいと、思いますよ」
その言葉に、今更ながら下着姿だったことを思い出す。
「す、すすすすすすいません!! お見苦しいものをっ」
顔から火が出るかと思うほど頬が熱くなった。……穴があったら入りたい。
ペットボトルのミネラルウォーターを一本一気飲みし落ち着いた私は、今はコーヒーを頂いている。展示会で味わった、あの豆だった。
「……ほんとにどうも、すいません」
とりあえず無事にワイシャツとスカートを履いてソファーに腰掛け、どこかの落語家よろしくしょんぼり深々と頭を下げた。
「いえそんな、謝らないでください。私も飲ませすぎてしまいました」
そう言って今度は須貝が頭を下げる。
「ごめんなさい。つい楽しくて飲みすぎちゃったみたいです、本当に恥ずかしい」
「いやいや、それを言うなら私こそ、楽しかったです。こちらこそ謝らないと。すみません」
お互いに頭を下げた状態でしばらくお見合いとなってしまった。
「……あの、これだとキリがなさそうですから、このへんで」
「そうですね。はは」
お互いに身を起こし、苦笑いを浮かべつつ困ったことになったと思っていた。
まずは昨日の顛末を聞き出そう。
「いやすみれさん、ゆうべはすごかったですよ」
そんなふうに言わないで! そんなにすごくなかったでしょ私!
……ああもう、泣きたい。




