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「あ……」
「? どうかされました?」
ありていに言うと、超がつくほどのイケメン。だめだ、イケメンの前では固まってしまう。悪い癖だ。きっと私、いま肉食獣の前にうっかり姿を晒してしまったネズミのような顔をしているに違いない。……実際そんな現場、見たことないけれど。
「あ、えと。会社から、AIについて調べてこい、といわれて。その。よく、わからなくて」
突然髪をいじりだし、目を泳がせながら紡がれるいかにも人馴れしていない私の言葉。ああ、きっとバカにされる――ちらりと見上げたその先にはしかし、笑うでもなく憐れむ様子もなく、ただ軽く頷く姿があった。
「ああ、なるほど。よくある話ですね、お気の毒です。なんでしたらゆっくりお話し、聞かせていただけますか?」
その様子に、ふっと肩の力が抜けた。そのさわやかで柔らかな物腰のそのイケメンさんに誘われるまま、私は奥の机に座った。
「コーヒーで、よろしいですか?」
こくこく、と頷く私にニコリと微笑むと、すぐに別の人がコーヒーのカップを机に準備してくれた。
「アナタは運がいい。ちょうどさっきドリップしたばかりですよ」
どうぞ、と促されるまま口に運ぶ。ふわっと果実のような香りが飛び込んでくる。上品な酸味に対してどっしりとしたコク。若々しいイメージ。
「美味しい……」
「そうでしょう? 知り合いのバリスタからわけてもらうんですが」
「ほんとうに、すごくおいしい」
「そう言ってもらえると、お出しした甲斐があるというものです」
こんな場所で出すようなものじゃない。イケメンは満足そうに私を見ると、カップをもう一度傾け、そして置いた。
「さて、AIについて一通りお話を差し上げれば、今のあなたのお役に立ちそうですか?」
面白い言い方をする人だと思った。
「面白い観点でお話を切り出されるんですね」
するとイケメンは少し目を見開いて笑った。
「ああ、この切り出しは、実はAIが提案してくれてます」
「えっ」
「貴女の様子を、このブースのカメラがとらえて、その人物がどういうことを考えているかをAIが行動分析して、トークを提案してくれているんです。ほら」
そういうと彼は手元のタブレットを私に見せた。そこには私がどう感じているかなどが書かれている。『はずかしい、AIよくわかんない、早く帰りたい』……すごい。バレてる。
「正直な方ですね。……お早めに帰られたいということでしたら、我々のブースに一番に立ち寄られたあなたはツイてますよ。正解です。今日は弊社のブース、ひとつご覧になれば後は無用です。そのままお帰りいただけますよ」
そして名刺を差し出してくる。
「初めまして。私、須貝と申します。一応、代表やってます」
自信たっぷりに話す彼。これが私の運命を大きく変えた男、須貝秀平との出会いだった。