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7-4

 出社し机に向かうと、いつもの笑顔が迎えてくれた。


「おはよう、すみれさん! 大体まとまったよー」

「お、さすがだね。早速聞かせてくれたまえ」


「かしこまりましてございます、すみれ重役どの。まずはこちらを」

 こんな感じの重役報告ロールプレイで一日は始まった。


「予想通り、業務フローの多くの部分に無駄な作業があることがわかるよ。あ、知ってると思うけれど業務フローは業務の流れ。それを模式化して図示したものを指すことが多いよ」


 改めて示されると本当に酷い。


 承認行為一つとっても、なぜか課長承認の後に別の係長承認が必要だったり、複数の部長承認が必要なケースで別日にいちいち会議をもうけていたり。


 酷いのは社長が承認した後に総務の課長が承認するフローとか。


「完全に無駄なんだけれど、例えば社長がその範囲の業務をしらないから、みたいだねー」


 画面上でメガネ女子のコスプレをしたチサトが書類をペラペラめくる動作を見せながらつぶやく。髪をツインテールにしていて、可愛くて「いやーん、かわいい!」っていいたくなる自分にちょっぴりムカつく。


「社長いらなくない?」

「あはっ、すみれさん酷い」

 チサトが私を指差して悪い顔をする。


「てか社長に届く前にその課長を回ればいい話よね」

「そうだねー。今まで業務を整理する人がいなかったのかな」


 そうだ。今までうちの会社は、一部のベテランが決めた業務をその他大勢が踏襲してこなすというやり方を行っていた。


 若手の中には無駄な業務があるという意見が都度出ているけれど、そのたびにベテラン勢の「経験しないとプロになれない」などというわけのわからない理屈によってうやむやにされてしまっている。


 チサトが提示した提案は承認だけにとどまらず、総務などのスタッフ業務はもちろんのこと、設計などというライン業務に至るまで微に入り細に入り行われていた。


「これってさ、これらの業務をみなおすっていう業務改善やれば」

「うん、試算では社員の総残業時間は半分くらいになると思うよ」


 あれ、これって目標クリアじゃない?


「ま、このへんはやってもらえればいいとして……気になるモノも見つけちゃったんだよね」

「気になるもの?」

「うん、ヤバいもの。これが本当なら経営へのインパクト大きいよねー」

「……一体何よ」

「サービス残業。タイムカード打刻する前と後、それぞれ仕事してる。……全員じゃないけど、設計者の多くがやってるね」


 いわゆるサビ残。タイムカードの打刻の前後に業務を行うこと。賃金の不払いにつながるので、明確に法律に触れる行為だ。そんな予感はしていたけれど……。


「一応サビ残分を加味した提案になってるから、成果そのものに影響はないけれどね」


 残業手当の不払い。それを知っていたから浦野は出すことを渋ったのだろうか。


「ねえチサト」

「なにすみれさん」


「労務と工数、売上と仕入のデータをそれぞれ掛け合わせて分析できる……?」

「……できるよ。パラメータが多いから、ちょっと時間かかるけど」


「時間に余裕のある時にやっていてほしい。まずは今の労働時間の件をまとめて提案できるようにしてくれる?」


「なんか、急に頼もしくなってきたね、わかったよ」


 今回の提案はそのまま出すには内容が粗いというか、刺さらない(・・・・・)。だから偉い人が食いつくような『餌』の形に加工しないといけない。


 チサトに微調整を指示しおわったところで、本日のターンは終了した。


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