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7-3

「演じるってどういうこと?」

「そのままの意味だよ。私達が、社員のスキルと感情を『模倣』して、行動をシミュレーションするの」


 今までの情報の蓄積から、個人ごとのスキルの推測はある程度可能かもしれないけれど、感情はどうやって情報の蓄積をしたんだろう。


「感情は今までのメールとかのコミュニケーションを分析して、『たぶんこういう行動を取るなー』って言うのを推測するって感じかな。だから、実際のその人にはなりきれないよ。あくまでデータのある範囲で。だから……」


 そこでチサトはいたずらっぽい表情をした。


「例えば明日、すみれさんがどんなパンツ着けてくるつもりなのか、なんてのはわかんないかな」


「例えが嫌すぎる」

 ときどきこんなおっさんみたいなトークをするから油断ならない。


「あはっ。なんなら予測してみようか? えっとたぶんねー」

「いや、ホント無理だからやめて。想像するのもやめて」


 私の反応に満足したのか、ニンマリとしたあとは不意に真顔に戻った。


「ま、冗談はさておき。あくまで会社内での振る舞いを模倣するくらいしかできないけれど、会社活動を検証するならさほど誤差は出ないと思うよ」


「どのみちそれしか手はなさそうね」



 検証もチサトに任せることにして、私は別の情報収集。まだ出されていない情報の提供のお願いだ。具体的には労務と会計。残業を減らして儲けたいなら絶対出してもらわないといけない資料なんだけれど……。


「浦野さん。いい加減出していただかないと。仕事が進みません」

 この湯呑亀仙人は私の言葉に、ちらと視線を一瞬向けると再びパソコンに視線を落とした。


「いや、だってタイムカードと会計ソフトを見せろと言われてもね……」

「社長からの指示なんですけどぉ」

「それもどうなんだろうねぇ」


「わかりました。では今から社長に連絡をして、浦野さんに直接指示を伝えてもらいますねー」

 そう言って浦野の机の内線電話をとった。そのまま社長室の番号をプッシュしていると、浦野が

 フックを勢いよく押さえた。


「ちょちょちょ。……わかったよ、出すからちょっとまって」

「すぐ出してもらえますか? 浦野さん、暇ですよね今」

「……タイムカード、金庫から持ってくるから待ってて」

「あ、私も行きます」


 浦野は明らかにげっそりとした表情を見せた。


 金庫からタイムカードが入った箱を取り出しながらボソッとつぶやくように語りかけた。

「……なんだかすみれちゃん」

「はい?」

「その……怖くなった?」

「え? はぁ?」

「ボクとしては、今までのすみれちゃんがいいなぁ」

「私は何が変わったとか、無いと思いますけれど?」


 箱を受け取りながら首をかしげる。


「そうかなぁ」


 私自身、変わったという印象はない。いつもの冴えないオフィス女子だという自覚もある。けれど加奈や浦野にまで変わったと言われた。

 何が変わったんだろうか。モヤモヤした気持ちがずっと晴れない。


 会計ソフトが入っているパソコンは、セキュリティの都合とかなんとかで普段はネットワークから切り離しているそうだ。どうりでチサトが気づかないわけだ。


 ノートパソコンに入っていて、自宅に持ち帰ることもあるという。私は就業時間内はネットワークに接続して電源を入れておいてもらうよう、お願いをした。



 今日の残りはタイムカードのスキャンに費やした。コピー機をしばらく占領していたので総務の何人かに文句を言われてしまった。


 けれど翌朝のチサトの報告が楽しみだ。どんな結果をもたらしてくれるのだろう。


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