7-1 書類の山は、宝の山。
「――てなこと言われてびっくりして思わず立ち上がっちゃったわよ。冗談だよね、そんなの」
翌朝出勤して、挨拶もそこそこにパソコンの前に座るとチサトに尋ねてみた。半分、返答を期待して。
「うーん、多分大丈夫だと思うよー」
ほほう? でももう驚かないからね。こうなったらトコトンやってもらおうじゃない。
「いい返事ね。じゃ、早速取り掛かろうか。まず社員全員の行動を分析するところからかな。業務内容は……行動分析したら推測可能よね?」
「全社員分の分析って、軽く言ってくれるよね、代表もすみれさんも」
肩をすくませてやれやれと言ったポーズで苦笑いを浮かべる美少女アイドルちゃん。
「あら、無理なの?」
フン、と鼻を鳴らして挑発してみる。ってAIに挑発なんて効くんだろうか。
「データセンターのブレーカー、落ちるかもよって代表にメールしとくよ」
普通に乗ってくる。これやっぱり、中に人がいるんじゃなかろうかと思えてくる。
「落ちないように適当にサボってもいいのよ?」
どこまで乗ってくるか確かめたくなる私も相当底意地が悪いかもしれない。
「私達に向かって適当にサボれっていってんの? そんなの無理よ。だって」
そして互いに指さす。
「「こんなに楽しそうなこと、適当に出来ないでしょ!」」
そして二人で笑った。「なんだい、たのしそうだね」と湯呑おやじ、浦野が首を伸ばした。水面に鼻だけ出して呼吸する亀みたいだと気付いたのはつい先日。おかげでそれから新たな称号は亀仙人だ。元ネタ程はまったくさえないけれど。
私は勢いそのまま、社内に残る古い紙の資料を集めてスキャンするよう、各部署を行脚。チサトはその資料も分析しつつ現在蓄積されているデータを分析する仕事にそれぞれ向かう。
「こんな古いファイル、一体何に使うんだい」
営業の古参社員は怪訝そうな顔をしつつ数冊のキングファイルを差し出す。
「仕事を楽にする方法を探るんですよ」
笑顔で受け取ると、更にふしぎそうな表情を返した。
そんな感じで各部署を回って集めた資料を、次々とスキャンしていく。
「ホント、こんな資料どこにあったの? すっごい量だよねー」
「あるところにはあるんだよね。……手伝ってもらっちゃって、ごめんね。ありがとう、加奈!」
岡林 加奈は数少ない同期入社の女の子だ。ランチを一緒したり、たまには二人で飲みに行く私にとって、貴重な戦友だ。礼を口にすると、ニコッと笑って答えてくれた。
「いいよ、丁度机から離れたかったタイミングだし。そんなことより、大丈夫? できそうなの、働き方改造」
「働き方改革、ね。うーん、わかんない。ま、やれることだけでもやってみようかなって」
「がんばってね。私は暇つぶし半分だから、気にしないで。さ、ボチボチやっつけちゃおう」
加奈が手伝ってくれたこともあり、思ったより早く片づけることが出来た。これなら分析の方にも少し取り掛かれそう。
「思ったより早く終わっちゃった! ありがとう、本当に助かっちゃった! 今度何かお礼するね」
「お礼なんてイイって、今度また飲みにいこ。……それより、すみれ」
「ん? なに?」
「すみれ、なんだか最近……イキイキしてるね」
「えっ? そ、そうかな?」
「そうだよ……じゃ、またね。頑張ってね」
「おう、頑張るよ! ホント、ありがとね」
手をひらひらして見送ってから、パソコンに向き合う。
「さて、どんな感じ? サボってないわよね、チサト」
「私達に休息は不要なんだぜ? だよ、すみれさん。早速相談があるんだけど」
そして私とチサト、二人の作戦会議が始まった。