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「お茶をお持ちしました」
「あれ、先ほど……って川下さん。なんで?」
「社長に応接室のお客様の様子を見てくるようにと言付かったものですから。先ほどお出ししたお茶も冷めてしまった頃でしょうから、代わりをお持ちしました」
なんだ!? 気が利く。……って目的は須貝か。私のジト目をしってかしらずか、すすと歩み寄った彼女はお茶を置くため膝をおった。
「お噂はかねがね。とても素敵でらっしゃいますね」
コトリとお茶を置いてから、うっとりと須貝を見上げる。
「はは、光栄です。女性に褒められると、お世辞でもうれしいですね」
「あら。お世辞なんかじゃありませんよ。とっても素敵です!」
彼女は立ち上がりつつお盆を胸に抱き言い募る。正直あざとすぎて吐き気がしそうになる。初対面のお客様にする態度じゃない。ここはいつからそういうお店になったんだろう。
「これからもお見えになるんですか?」
「ええ。弊社のソフトを社長が買っていただきさえすれば」
「わかりましたっ。全力で買うように言い聞かせますから、いつでも遊びにきてくださいね!」
両のこぶしをぎゅっと握った川下は、目を輝かせた。
川下は絶えずくねくねしながら会話をつづけ、またお茶が冷めようとしたころ営業の人に呼び出しを食らってしぶしぶ部屋を後にした。
……本当に話しに来ただけなんだ、あの人。信じられない。というか、行動力。
「なんというか、面白い方でしたね」
須貝はこれまた嘘かまことかわからないセリフを口にする。
「ホントですか?」
眉をひそめて尋ねてみると、彼は肩をすくめた。
「まぁ、個性的、と言った方がいいんでしょうかね?」
「で、今後はどのように進めていくご予定ですか?」
「今回の件で社長は大変喜んでいます。おかげで正式購入の筋道が立ちました」
私の言葉に、須貝の顔はほころんだ。
「それは良かった。ではいよいよ残業時間低減に向けた検討を始めるということですか」
膝に肘をつき、手を握るように組んでこちらをニコニコと見つめてくる。
「そういう事ですけれど、そんなに上手くいくと思いますか?」
正直な疑問を口にする。まずいところを見つけて新たなカイゼンプランを出すという作業だ。人間でも難儀するこの作業、いくら優秀なAIと言えども簡単な作業ではないだろう。
すると須貝は顎に手を添え、斜め上を見つめながらぽつりぽつりと口にした。
「うーん……どうでしょうか……。基本は社員の行動のムリムダムラを抽出してその分析……って所からはじめてそうですね……三日ってところでしょうか」
考えがまとまったのか、最後はこちらを向き直って答えた。
「分析が完了する、ということですか!?」
思わず立ち上がりそうになり、腰が浮いてしまった。
「いいえ、最初の提案が出てくるのが、ですよ」
須貝がイタズラっぽく笑った。
「うそでしょ!?」
今度は本当に立ち上がった。




