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6-2

「や、今回は助かったよすみれちゃん! ありがとね!」


 アンタにファーストネームで呼ばれる筋合いなどない。

 てかお前だったのかこのポカの犯人は。


「いえ中倉さん。影響が出なかったのならよかったです。未然に見つかってよかった」

「それなんだよ、なんで分かったんだ? あんなの注文書見てもわからないだろうに」


 この脳筋は不思議そうにこちらを見てくる。


「今回試験導入しているAIが判定してくれました。もしかしたら間違えているのではないか、と」


 いつの間にか画面上からチサトは消えていた。彼女にしてみれば、きっとこの脳筋も「あの手(・・・)」の人間なんだろう。


「AIってのは便利なんだな。俺はもっとこう、役に立ちそうで全然役に立たないもんだとばかり思ってたぞ」


 それは私もそう。AIなんてもっと限定的な部分、分野にしか使えないものだと思っていた。けれどもチサトはまるで違う。まるで生身の人間のようだ。



 AIが発注ミスを見つけて注文を止めたという噂は瞬く間に会社中に駆け巡った。午後には聞きつけた営業や設計の偉い人がとっかえひっかえやってきては話を聞かせろと来た。

 正直仕事にならなかったけれど、悪い気はしなかった。


「野路くん。やってるな」

「社長……と橋野(はしの)さん」


「やあ。なんだか凄い試みをしていると聞いてね」

 社長に付いてきて、へらっと笑ったのは総務の橋野。自他ともに認める腰ぎんちゃくだ。アラサーの甘いマスクの彼、人当たりの良さも相まって、根強い人気をほこる。女性に人気の彼だが男性にもそれなりに人気がある。やはり人間、コミュニケーション能力なんだろうか。


「なんでも注文ミスを書類だけで判別したそうじゃないか」

「ええ。書類のチェック一つとっても、チサトは優秀ですね」

「チサト? 誰だそれは」

 社長が眉をひそめた。


「あ、AIの愛称です。製品名と言っていいんでしょうか」

「ははは! AIだけに愛称か!」


 あー……言ってしまわれた。もう哀が止まらない。


「で、野路さん。どれくらい使えそうなんだい、このチサト、だっけ。AIは」

 橋野は興味深げに私のパソコンを覗き込む。


「えと、まだ使い始めなのでまだ慣れてないんですけれど、それでこの効果が出ましたから、少しは期待できるかと」

「凄いじゃない! どんどん進めていって欲しいな、ねぇ社長!」


「そうだな! はやいところ残業時間の低減の素案など見れたら嬉しいな!」

「AIの有用性にいち早く気付いて野路さんに指示されていたとは! さすがですね、社長!」


「社長たるもの、先見性が肝心だからな! よし野路くん、引き続き頼むよ!」


 そう言い残すと馬鹿笑いを立てつつ自分の部屋に戻っていく社長と、それを一歩下がってついて行く橋野を見送り、私は盛大なため息を付いた。


「んー、なんかまずい提案したかな?」

 チサトが気まずそうに声を掛けてきた。


「いや、全然。でも凄いねチサト。見事的中! この調子で頑張ってみようか」

「うん! わかった! 頑張ろうね、すみれさん」


 彼女の底抜けの明るい声が、せめてもの救いだ。


 この日を境にチサトの評価が得体の知れないタダのおもちゃから、有用なビジネスパートナー足りえるものと、徐々に変化していくのだった。


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