5-1 センセー、このAIやっぱり変です
「えっと……やっちゃいましたけれど、まずかったですか……?」
五秒ほど、返事が無かった。
「あ、あの」
「いえ、大丈夫です。一時的にクラウドの利用率が跳ね上がったと運用チームから連絡があったものですから、もしかしてと思いまして」
「そうなんですか。あの、ご迷惑でしたか?」
別途料金がかかっちゃいますみたいなこと、言わないよね? ……ね?
「いえいえ全く問題はありません。……今のところは」
「と、いうことは」
やっぱりお金がかかる系なお話、ですよね!?
「試用期間がすぎれば、規定の料金をお支払いいただくことになるのですが、『すぺしゃるチサトちゃん』モードは、性能が当然スペシャルなんですが、料金もその、スペシャルでして」
「え、……具体的には?」
「概ね当初お話していた金額の、20倍ほどを考えておいていただければ」
にっ、20倍!?
「えーっ!! や、やめます、すぐやめます、今すぐやめます!」
「あーっ! いやいやもちろん試用期間はどれだけ使っていただいても無料なので!」
「そ、そうなんですか?」
「なのでこの際、こき使ってやってください。……それよりその、野路さん」
「あ、は、はい?」
よかった、との思いが強すぎて、返事が間抜けになってしまった。
「チサトの機能について、もう少しお知りになりたくないですか」
「といいますと、講習か何かですか? でも会社からはそんなお金はでないかと」
「ああ、その辺りは無償セミナーをご用意できますから大丈夫ですよ。ただ、お時間が夕方からになってしまいますが」
無料なら、大丈夫かな。
「むしろそのほうが有り難いです。……実は出張もうちの会社、相当うるさいので」
「ははは、そんな気はしていました。……ちょうど明日からのクラスがありますが、いかがですか?」
そんな感じで早速明日から講習が始まるようだ。
忙しくなるなあと思いつつ電話を切ると、背後から声がかかった。
「ねぇ野路さん。先週お願いしていた備品台帳の……あら? アニメのキャラクターかなんかをパソコンに出してどうしたの? 新しい趣味かしら?」
ああ……コイツか。
「川下さん……いえ、これはチサトっていうAIで」
「そんなキャラクターの名前を教えられても。でもいいのー? 仕事中に趣味のお遊びしてて」
「……これは社長に依頼されたれっきとしたお仕事です」
この子は川下夢乃。きらびやかな見た目そのままの中身空っぽ女だ。男好きのする容姿と言動で、多くの男性社員を虜にしている、と本人は思い込んでいる我が社の裸の王様ならぬお姫様。
「ふーん、社長がねぇ……」
訝しげにパソコンのなかのチサトを眺める川下。
「川下さん。はじめまして。多機能AI、チサトだよ。よろしくね!」
「わっ。なになに、パソコンが喋りだした!?」
川下はチサトの突然の発言に目を見張った。
「ええ、社員の情報はすでに理解していますから、誰かは判別できるみたいですよ」
私の言葉に、画面の中でえっへんとばかりに胸をはるチサト。
「へー。なにができるの、これ」
「私は『これ』じゃないよ! 美少女アイドルAI、チサトちゃんだよ!」
今度は両手を腰に当て頬をふくらませる。
「うわ、文句いった。よくできてるわねー。てか美少女って自分で言う? ふつー」
普段は口を開けば腹が立つ言動しかしない川下だが、さすがにそこは同意する。
「じゃあさ、社内のいい男に今彼女がいるかってわかる? ってわかるわけ……」
「確度80%程度だったら即答できるよ」
「うそ、マジで!?」




