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4-3

「すみれさーん。だいたい終わったよ」

 画面の端でチサトが手を振っている。クリックするとアプリが最大化して、元気なチサトが画面いっぱいにひろがる。


「もう、終わったの? 全部?」

「ほとんどね。パスワードがかかっているファイルはいま並行して解析中(・・・)だけれど、ほかは終わったよ」

 解析中って……まさか。


「えと、解析中ってのは」

「うん、辞書とブルートフォースで頑張ってるよ! 探索の途中で、社員さんたちの個人情報データベースを発見したから、辞書での解析がはかどっちゃった」


 そう言って現在の進捗をダッシュボード形式で表示してくれた。全文書の95%が解析完了。ということはパスワード付きの5%を残して解析が終わったということか。

 ……パスワードに個人情報使うのはやめよう。


「ねね、辞書、とかブルーとフォー? ってなに? フォーは食べ物じゃあ、ないもんね」

「あ、ごめんねすみれさん。解析の手法のことだよ。辞書っていうのは言葉のとおり、辞書に載っている言葉を、パスワードによく使われる単語を優先して試すやり方。さっきの社員の個人情報はもちろん、優先して試したよ。実はこの手法、おもしろいこともわかるんだぁ」

「面白いこと?」


「うん! 誰が誰を気になってるかー、とか、かな? 人の相関は流れてるメールとか、社内SNSで把握できてるから、後はそういう(・・・・)関連を優先して試したら結構ヒットするんだよ?」

「へー……」

 好きな人の誕生日とかに設定してるのかな。怖あ。社内SNSで下手なこと書けないわ……。


「そういうデータ、見たかったら出せるけれど、見たい?」

「あいや、私そういうのパス」

「ふーん。だいたい女の人って、そういう話好きなんだけれど……わかった。で、もう一つは食べ物じゃなくて『ブルートフォース』。総当りで試行することだよ。もっとも、これも他の情報から優先すべきキーワードって決まってくるけどね」

「チサトちゃん……アナタって」

「ん? なに?」

「頭いいのねえ」

「えへへ、ありがと! でもそういうすみれさんも、中々やるんじゃないかなぁって思うんだけど」

「へぇ、どうして?」

「色々あるんだけれど、一番の理由はパスワード。すみれさんくらいなんだよ。しっかり付けてるの」

 そしてチサトは画面の資料を別のものに切り替えた。円グラフの随分広いエリアに私の名前が入っている。これはなんだろう?


「――残り5%のパスワード未解析分のうち、すみれさんが作成した文書が占める割合は73%。しかもすみれさんのファイルはまだ一つも開けてない。手強いね、すみれさん。辞書での解析が外れたから、いま担当AIちゃんたちが躍起になって総当りで頑張ってるよ。八桁目に入ってるね。ねえ、ヒントちょうだい?」


 言えない。絶対言えない!……パスワードが家で飼ってる金魚の名前とお迎えした日だなんて!!

 ごめんなさい、チサトちゃん!


「あ、あの私が作成した文書の解析は中止」

「かしこまり、だよ。ちなみに参考までに、中身はなあに? 全部xlsm。マクロ付きエクセルワークシートっていうことは確認できてるけど」

「あー、くだらない資料作成用マクロよ。後で全部パスワードは外すから見てくれたらいいよ」


 しかしこんな短時間で解析など。私のパソコンは特段高スペックなわけでもない。もしくはこのAI(チサト)がオーバーテクノロジーで作成されているのか……? ――ごくり。


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