4-1 チサトちゃんさん降臨
「んっ。……あっ。……えっ、ちょっ、……は!? ……うーん」
……声だけ聞いたら勘違いされそうだけれど。私は今、振り回されている。
多機能AIパッケージソフト「チサト」に。
しかもインストールで。
インストールウイザードを操作中、何度目かの作業中断をした。
「あれ? 何このチェックボックス……説明書に書いてないんだけれど」
画面上には『すぺしゃるチサトちゃん』と書かれたチェックがあり、その下には『このチェックは弊社セールスとお打ち合わせの上、ご選択ください』と書かれている。
「でもまぁ」
すぺしゃる、っていうくらいだからきっといい機能なんだよね。オン、っと。
「野路くーん! ちょっといいかな!?」
声の方を見ると上司の浦野が手招きしている。手に湯呑みを持っていないところを見るとお茶ではなさそうだ。
画面にはなにやら確認のメッセージが出たので慌てて「理解しています」、その後続けてカチカチ、と「次へ」を押していくと「インストール」というボタンになった。ようやく終わった。ホッとしてそれを押す。
画面が「しばらくお待ちください」に変わったので、聞こえないようにため息を付いてから、浦野のお願いを聞くため立ち上がった。
「なんですかー、浦野さん」
用事は大したことなさ過ぎて脱力したが、やたらに時間だけはバッチリかかるものだった。
「『方眼エクセル』など滅んでしまえばいいのに……!」
方眼紙のようにセルを一文字だけ入るサイズにしたエクセルシートのことを、業界の人々は『方眼エクセル』などと言って忌み嫌う傾向がある。
けれど方眼状態のセルを連結させて大きなセルを作り帳票を構成すること。それは大変便利であると私は思う。そうでない使い方をするのが厄介であり、大多数の人が嫌う理由なのだ。
「だからなんで一文字ずつ入力するかなぁ……!」
本当に方眼紙のように一セル一文字だけ入力されているシートが困るのだ。理由はとたまに聞かれるのだが、一度やってみればわかると返事をしたら数時間後には大体「ごめん」と謝ってくるか、「よくわかった」とげんなりした顔で言うか。
そんな感じでげんなりし、数時間あけた自席に戻ってきた私を待っていたのは、ふわふわピンクな女の子だった。
口をパクパクするのでどうしたことかとおもったら、パソコンのスピーカーがミュートになっているからだった。なので何の気なしにミュートを解除してしまった。
「おかえりなさい、お姉ちゃん! 久しぶりだね、えーと、三日半位ぶりかな?」
今度は大音量で響き渡ったので、電話や会話で騒然としていたオフィスは一瞬にして静まり返った。