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3-4

「クイズ出すなら答えくらい覚えとけっての――」

 手には急須。目の前には雑巾。ふむ。


「お、いたいた。野路君」

 お茶場で雑巾の搾り汁を入れてやろうか真剣に悩んでいる時に、不意に廊下から声をかけられた。社長だ。よかった、現場を見られなくて。


「どうかね、あの件。進捗は」

「はい、例の会社で少しお話を聞いて、まずは三十日間無料のキャンペーンで試してみようかという話になりそうです」


「ん? それ三十日じゃなくてもっと伸ばせないの? 三年とか」

「三年ってさすがにそれは」

 苦笑いを返して差し上げます。三年もタダにするやつなんてどこにいるのかと。


「そうか? ソフトなんて所詮コピーすればすむんだから、一つや二つタダでくれても変わりゃしないと思うがな」

「あはは……」

 何をいっとるんだコイツは。いやしくも会社を経営している人間の言葉とは思えない。


「まぁそんなことより、やっぱり女の子は台所が似合うね。君もそろそろ結婚した方がいいんじゃないのかね。どうだ、あの営業の……あー中倉(なかくら)君とかどうだね」

「えっ、んー、でもすでに相手がいるって話ですよ」

 冗談じゃない。あんなパワハラ脳筋バカ、絶対あり得ない。


「そうだったのか? お似合いだと思ったんだがな。ま、女は家庭に入って家を守るのが一番幸せなんだから、さっさといい男見つけないとな! じゃあ、例の件頼んだよ」


 言うだけ言って社長は去っていった。急須にお湯をいれて冷ましている間、しばらくボーっとさっき言われたことを反芻していた。お湯を戻し、急須に茶葉を入れ、お湯をいれようとしたとき、不意に怒りがこみ上げた。


「いい加減にしなさいよ? どいつもこいつも……」


 なんだあの言い草。女は家庭に入るのが一番幸せだ? 誰が決めたんだそんなこと。まるで男がいないと幸せになれないみたいな言い方。あきれてものが言えない。


 スタッフの女性に怒鳴りちらしてパワハラ三昧な営業課の連中。

 妻や娘にバカにされ、毎朝湯呑の難読駅名クイズなんかで女性社員に出して、代わりにバカにし返すことで溜飲を下げようとする奴。

 どうしてこの会社の男どもはこうもくだらないことでマウントを取ろうとするのか。そんなに自分に自信が無いのか。そんなことでしか主張できないのか!


「はー、もう怒った」

 コポコポと難読駅名湯呑にお茶が注ぎこまれていく。

 パワハラ男も、セクハラオヤジも、うっぷん晴らしオヤジもふざけるな。


 なんで。なんでこの会社は、こうも女が虐げられるんだ。


「やってやる。やってあいつら全員リストラしてやる」

 湯呑のお茶よりはるかに熱く、ドロドロしたモノが心の奥底に渦巻き始めたのを、私はしっかりと感じていた。


 気づけば湯呑には茶柱がたっていた。喜ぶ姿を想像したらまた腹が立ったので、箸でつまんで三角コーナーに捨ててやった。


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